膵頭部十二指腸切除術

膵頭十二指腸領域の疾患に行われる膵頭部十二指腸切除術は1898年イタリアのイモラという小さな町のアレスサアンドロ コジヴィラ(Alessandro Codivilla)によって初めて行われたといわれている. 現在の方法とは多少異なるが, 手術そのものは成功するも, 次第に全身衰弱が進み, 24日目に死亡した. わが国では1946年に来留が膵頭部癌に対して行ったが術後3日目に死亡した. 私が1970年に本学を卒業した頃でも膵頭部十二指腸切除術後の術死は10%から15%で, この原因の大部分は膵管空腸吻合の縫合不全であった. そのため膵管と空腸を吻合することなく結紮し, 術後外分泌機能は経口的に管...

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Published inJournal of Nippon Medical School Vol. 70; no. 4; p. 373
Main Author 渋谷哲男
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医科大学医学会 15.08.2003
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Summary:膵頭十二指腸領域の疾患に行われる膵頭部十二指腸切除術は1898年イタリアのイモラという小さな町のアレスサアンドロ コジヴィラ(Alessandro Codivilla)によって初めて行われたといわれている. 現在の方法とは多少異なるが, 手術そのものは成功するも, 次第に全身衰弱が進み, 24日目に死亡した. わが国では1946年に来留が膵頭部癌に対して行ったが術後3日目に死亡した. 私が1970年に本学を卒業した頃でも膵頭部十二指腸切除術後の術死は10%から15%で, この原因の大部分は膵管空腸吻合の縫合不全であった. そのため膵管と空腸を吻合することなく結紮し, 術後外分泌機能は経口的に管理しょうとする考え方を持つ学者も現れた. そこで犬の膵管を結紮した群と吻合した群を作り1年後に屠殺して検討した. 吻合例においても膵管の開存はなく, 組織学的に差を認めなかった. この結果, 5例に膵管結紮術を行った. このうち3例は膵管がどうしても見つからないため断端を閉鎖したもので, 膵瘻, 膵嚢胞など作ることなく経過したが, 3例は再発で死亡した. 1例は13年になりますが元気に生活しております. しかしながら, この方法は多くの研究者からあるべき機能を無理に廃絶させてしまう事への批判を受け, 機能を温存しかつ安全な方法として膵液の完全外瘻化を行った. これはたとえ他の部分の縫合不全が起こっても膵液はすべて体外に誘導されるため胆汁と混和して活性化することがなく腹腔内の臓器への影響が少ないため安全である. 方法は膵管に膵管チューブを挿入して膵管とともに結紮してこのチューブを腸管の中に引き込み胆管空腸吻合部を経由して肝左葉から体外に誘導して完全外瘻とした. 膵管と腸管の間に瘻孔が完成するまで約1ヶ月間チューブを留置して抜去した(A法). それ以前は, 膵管空腸吻合部にステントチューブを挿入して膵管と空腸を吻合する方法(B法)で行っていた. 1982年から2003年4月までにA法53例, B法19例行った. 膵管空腸吻合部縫合不全による合併症はA法に瘻孔8例, そのうち1例は再手術を行ったが, 他の7例は保存的に治癒した. B法は腹腔内出血で2例死亡し, 3例瘻孔を作ったが保存的に治癒した. 胆管空腸吻合部縫合不全は, A法7例, B法は1例認めた. その他A法で縫合不全と関係なく敗血症で1例, 出血で1例死亡した. A法は膵管空腸吻合部の縫合不全に起因した合併症で死亡例はなく, 手技も容易で手術時間も短縮が可能であった. 全例の手術死亡率は5. 3%で決して満足すべき数字ではなく, さらに改良を加えて, 安全な術式にしていきたいと考えている. なお, A群で縫合不全と関係なく死亡した症例は術前の評価, 全身状態の管理などをさらに厳しくして適応を決定するようにしている.
ISSN:1345-4676
1347-3409