骨誘導因子(BMP-2)によるId-1遺伝子の転写調節機構

骨誘導因子(Bone Morphogenetic Protein)は, 筋組織内への移植によって, そこに異所性の骨形成を誘導する. 我々は, このBMPによる骨誘導の機構を解明するために, マウスの筋芽細胞C2C12を用いた培養系を確立した. このC2C12細胞は, BMP-2で処理すると筋細胞への分化が完全に抑制され, 代わりに骨芽細胞様細胞への分化が誘導される. このとき, BMP-2は1時間以内にヘリックスループヘリックス型の抑制型転写調節因子であるId1の発現を誘導する. そこで本研究では, 不明な点が多いBMPシグナルによる標的遺伝子の転写調節機構を明らかにするために, BMPによ...

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Published in昭和歯学会雑誌 Vol. 20; no. 4; p. 496
Main Authors 片桐岳信, 須田立雄, 高橋直之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学・昭和歯学会 30.12.2000
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ISSN0285-922X

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Summary:骨誘導因子(Bone Morphogenetic Protein)は, 筋組織内への移植によって, そこに異所性の骨形成を誘導する. 我々は, このBMPによる骨誘導の機構を解明するために, マウスの筋芽細胞C2C12を用いた培養系を確立した. このC2C12細胞は, BMP-2で処理すると筋細胞への分化が完全に抑制され, 代わりに骨芽細胞様細胞への分化が誘導される. このとき, BMP-2は1時間以内にヘリックスループヘリックス型の抑制型転写調節因子であるId1の発現を誘導する. そこで本研究では, 不明な点が多いBMPシグナルによる標的遺伝子の転写調節機構を明らかにするために, BMPによるId1遺伝子の転写調節機構を解析した. ヒトId1遺伝子の5'上流をクローニングし, それを組み込んだルシフェラーゼレポーターを構築した. さらに5'側を欠失させたレポーターも構築し, それらのBMP-2に対する反応性を解析した. その結果, 転写開始点より約1.0kb上流にBMP-2刺激に応答するために必須な領域の存在が確認された. さらに, 種々の欠失レポーターを解析した結果, -985から-957bpのGCに富む29dpの領域がBMP-2の応答に必須であることが判明した. この29dpのオリゴDNAをプローブとしてゲルシフトアッセイを行うと, BMP-2で刺激したC2C12細胞の核抽出液には, 塩基配列特異的に結合する因子が誘導されることが確認された. この領域にはZnフィンガー型の転写調節因子Egr-1が結合することが報告されているが, 変異オリゴDNAによる競合阻割実験と, 特異的な抗体を用いたスーパーシフト実験から, BMP-2が誘導する因子はEgr-1とは異なる因子であることが判明した. 以上の結果より, BMP-2によるId1の発現促進は, 今回同定された29dpの領域に結合する未知の因子が誘導され, この因子により転写が促進される可能性が示唆された. 今後, このDNA結合因子の性状を明らかにすることが, Id1の発現調節機構のみならず, BMP-2の生理作用の解明につながると思われる.
ISSN:0285-922X