ブルネイ王国における第1回国民栄養調査
ブルネイ王国は, ボルネオ島の北部にある面積6,000平方km弱のイスラム教国家である. 北緯5°前後に位置し, 熱帯湿潤気候帯に属する. 人口約28万人のうち, およそ70%をマレー系, 15%を中国系が占める. 14~16世紀頃には, ボルネオ島全土に加え周囲の島々を領土とするスルタン(イスラム教国君主)の国であった. しかし, 19世紀のヨーロッパ列強による植民地拡大の下で, 1888年にイギリスの保護領となった. 1941年に日本軍が侵攻し, 1945年まで日本の統治下にあった. 戦後, 再びイギリスの保護下に入り, 1959年には独自の政府をもつようになった. 一時期はマラヤ連邦への...
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Published in | 栄養学雑誌 Vol. 57; no. 3; pp. 187 - 190 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
1999
日本栄養改善学会 |
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ISSN | 0021-5147 1883-7921 |
DOI | 10.5264/eiyogakuzashi.57.187 |
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Summary: | ブルネイ王国は, ボルネオ島の北部にある面積6,000平方km弱のイスラム教国家である. 北緯5°前後に位置し, 熱帯湿潤気候帯に属する. 人口約28万人のうち, およそ70%をマレー系, 15%を中国系が占める. 14~16世紀頃には, ボルネオ島全土に加え周囲の島々を領土とするスルタン(イスラム教国君主)の国であった. しかし, 19世紀のヨーロッパ列強による植民地拡大の下で, 1888年にイギリスの保護領となった. 1941年に日本軍が侵攻し, 1945年まで日本の統治下にあった. 戦後, 再びイギリスの保護下に入り, 1959年には独自の政府をもつようになった. 一時期はマラヤ連邦への合流も検討されたが, 結局連邦には加わらずに, 1984年にイギリスより完全独立を果たした1, 2). 油田開発は19世紀後半から行われていたが, 1960年代に沖合で石油及び天然ガスが発見され, この国の経済状態を一気に高めた. 特に, 液化天然ガスの生産量は, 現在, 世界第4位である. 総輸出額の9割以上を石油, 天然ガスあるいはその関連製品が占め, 日本が第1の輸入国となっている. 首都のBandar Seri Begawanには, モダンなビルディングが建ち並び, よく整備された道路にはドイツ製の高級車が多くみられる. 一方, Kampong Ayerと呼ばれる地区には, 首都の人口の半分, 約3万人の人々が, “水上部落”を形成し, 伝統的な居住形態を未だに保っている. 1996年の統計資料3)によれば, 乳児死亡率は6.9と東南アジア諸国では, シンガポール, タイに次いで低い. また, 死因の第1位は心臓病で, 次いで悪性新生物, 脳血管疾患, 交通事故死と続く. 人口(=分母)が少ないので, 各死因の順位は年によって変動が大きいが, 周辺諸国と比較して, 感染症による死亡が少なく, いわゆる生活習慣病による死亡が相対的に多いことが特徴といえよう. 一部に低栄養の問題が存在するが, 過剰栄養の問題がむしろ大きく, 特にマレー系における肥満者の増加が, 公衆衛生上の大きな問題となっている. このような背景の下で, ブルネイ保健省は第1回目の“国民栄養調査”を計画し, 東南アジア医療情報協力事業(Southeast Asian Medical Information Center;SEAMIC)における協力を求めた. この協力事業の栄養プログラムとして, 筆者は, ブルネイ王国を4回訪問する機会を与えられた. このプロジェクトの中心的役割を果たされてきた山口百子先生が逝去され, 約1年を経た1999年2月の訪問で, 本プロジェクトもようやく最終段階を迎えた. そこで, この機会に故山口先生のご業績を含めて, 本プロジェクトの概要を報告したい. |
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ISSN: | 0021-5147 1883-7921 |
DOI: | 10.5264/eiyogakuzashi.57.187 |