健康被害に関するクライシスマネジメントにおける現行産業医制度の法的問題

現在の日本でボパール事故のようなクライシスが発生した場合,現行法では健康被害に関するクライシスマネジメントに有効に対処することはできない.それは,現行法において産業衛生がもっぱら事業者から労働者へのサービスの一環と位置づけられており,また事業場の責任は過失責任主義を原則とするからである.しかし,事業者の活動によって生じた健康被害に関するクライシスに対しては,常に事業者に責任を負わせることが公平である.また,健康被害に関するクライシスマネジメントの場合には,損害賠償の場合と異なり,事後的に過失の有無を問題とする余地がない.そこで,この場合には,汚染者負担および無過失責任主義を原則とし,事業者は,...

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Published in産業衛生学雑誌 Vol. 46; no. 5; pp. 159 - 167
Main Authors 湯木, 知史, 箱崎, 幸也, 吉永, 侃夫, 小泉, 昭夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本産業衛生学会 2004
日本産業衛生学会
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Summary:現在の日本でボパール事故のようなクライシスが発生した場合,現行法では健康被害に関するクライシスマネジメントに有効に対処することはできない.それは,現行法において産業衛生がもっぱら事業者から労働者へのサービスの一環と位置づけられており,また事業場の責任は過失責任主義を原則とするからである.しかし,事業者の活動によって生じた健康被害に関するクライシスに対しては,常に事業者に責任を負わせることが公平である.また,健康被害に関するクライシスマネジメントの場合には,損害賠償の場合と異なり,事後的に過失の有無を問題とする余地がない.そこで,この場合には,汚染者負担および無過失責任主義を原則とし,事業者は,一般市民まで含めて健康に関する曝露被害を最小限に止めるための方策を直ちに実施する社会的責任を負うと解する必要がある.この健康に関わるクライシスマネジメントには当然専門職が不可欠となるが,それには産業医の活用が現実的である.そこで,現行の産業医制度のあり方が検討すべき課題となる.
ISSN:1341-0725
1349-533X
DOI:10.1539/sangyoeisei.46.159