脳性麻痺に対する早期治療

脳性麻痺の治療効果については, リハビリテーション医学会, 脳性麻痺研究会, 全国療育研究大会でも毎回の様に, シンポジウム, セミナー等でテーマに取り上げられ, 指導的立場の医師によって論義が繰返されている. しかし, 明快な結論に至っていないのは周知の事実である. 脳性麻痺治療はいうまでもなく早期発見・早期治療が重要であるので, 医師による医学的発見と鑑別診断が何よりであるが, 現時点における治療といえば殆んど理学療法または運動療法を指していることから, 治療効果についてはセラピィの当事者である理学療法士によって論義される場があって然るべきである. 今回の理学療法士による討議は歴史的にも意...

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Published in理学療法学 Vol. 13; no. 2-3; p. 203
Main Author 紀伊, 克昌
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本理学療法士学会 10.04.1986
日本理学療法士協会
Japanese Society of Physical Therapy
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ISSN0289-3770
2189-602X
DOI10.15063/rigaku.kj00003124997

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Summary:脳性麻痺の治療効果については, リハビリテーション医学会, 脳性麻痺研究会, 全国療育研究大会でも毎回の様に, シンポジウム, セミナー等でテーマに取り上げられ, 指導的立場の医師によって論義が繰返されている. しかし, 明快な結論に至っていないのは周知の事実である. 脳性麻痺治療はいうまでもなく早期発見・早期治療が重要であるので, 医師による医学的発見と鑑別診断が何よりであるが, 現時点における治療といえば殆んど理学療法または運動療法を指していることから, 治療効果についてはセラピィの当事者である理学療法士によって論義される場があって然るべきである. 今回の理学療法士による討議は歴史的にも意義深い. けれどもいざ理学療法士の立場から脳性麻痺の治療効果について議論を展開しようとすれば困惑するばかりである. この困惑は一体どこから生じるであろうか. 理学療法一般評価でのMMTによって個々の子どもの改善度が示されるのであろうか. またはROMによって表現されるであろうか. 脳性麻痺治療にたずさわるPTからは否定的な答しか返ってこないであろう. ではMAT(運動発達年齢テスト)の尺度をもってすればどうであろう. これとて自然発達との区別がむずかしく真に理学療法技術によって, 一定の発達段階に達し得たかその証明がむずかしい. 脳性麻痺児の異常発達を阻止し得たか否かも効果の表示方法であるが, CPの異常発達知識が常識化されている周囲状況が必要である. 神経学的症状である痙性, 強剛性の改善や, 異常パターンの軽減はPTや両親が十分に実感しているが, 痙性の定量的測定はまだ試行段階にすぎず, データの呈示は困難である. こうした状況から第20回全国研修会全体のテーマである「理学療法における治療効果」に至近するには, 講師も非常な苦労である. いわゆるボバース法の立場から2名の講師に, 脳性麻痺児の治療に必要な理学療法士の素養と技術といった質的条件と, 長年にわたって経験してきた結果から得られる脳性麻痺児集団の変化について発表して貰った. 同じくボイタ法の立場から2名の講師に, ファシリテーションテクニックの意義とそれを施行した結果の脳性麻痺児の症状改善と, 追跡調査を発表してもらった. 両治療体系は, その基本概念, 技術展開, 治療方針などが大きく異なっているので, 単純な比較検討は不可能である. しかし, 1回1回の治療の際に子どもの反応を正確に把握する事が, 治療技術を正確に発展させ, その事により真の意味での理学療法効果の判定に結びつくという主張がはからずも一致した. 当面はボバース法, ボイタ法が脳性麻痺児に対する理学療法手段として競合し, 各々に発展し続けるであろうが, 両治療法によって援助を受けた子ども達が成人になって社会に出た時に, 本当の効果を確めることができよう.
ISSN:0289-3770
2189-602X
DOI:10.15063/rigaku.kj00003124997