過労死等事案から探る船員の労働災害の実態と防止対策の検討
目的:船員を対象にした脳・心臓疾患および精神障害の過労死等の実態を示す報告は少ない.そこで本研究では,船員被災者の属性,決定時疾患名,業務による負荷等に関する集計と分類を行い,過労死等の防止に資する基礎情報を得ることを目的とした.対象と方法:平成22年度から平成29年度までに過労死等として認定された脳・心臓疾患2,280件,精神障害3,517件の全事案の中から,船員(船員法上の船員以外の乗組員を含む)に関する事案を選定するために,船員や船舶,海上労働に関連するキーワードを含む事案を抽出した.結果,脳・心臓疾患33件,精神障害19件,合計52件の事案を選定した.これらを対象に,被災者の性別,発症...
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Published in | 産業衛生学雑誌 Vol. 66; no. 6; pp. 314 - 328 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益社団法人 日本産業衛生学会
20.11.2024
日本産業衛生学会 |
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Summary: | 目的:船員を対象にした脳・心臓疾患および精神障害の過労死等の実態を示す報告は少ない.そこで本研究では,船員被災者の属性,決定時疾患名,業務による負荷等に関する集計と分類を行い,過労死等の防止に資する基礎情報を得ることを目的とした.対象と方法:平成22年度から平成29年度までに過労死等として認定された脳・心臓疾患2,280件,精神障害3,517件の全事案の中から,船員(船員法上の船員以外の乗組員を含む)に関する事案を選定するために,船員や船舶,海上労働に関連するキーワードを含む事案を抽出した.結果,脳・心臓疾患33件,精神障害19件,合計52件の事案を選定した.これらを対象に,被災者の性別,発症時年齢,決定時疾患名,業務による負荷要因等を集計した.結果:脳・心臓疾患の平均年齢は56.7歳(標準偏差(SD)= 8.4),精神障害では45.2歳(SD = 14.7)であった.業種では,漁業と運輸業・郵便業が多かった.職種では,甲板部と船長が多かった.船種では漁船と貨物船が多かった.決定時疾患名をみると,脳・心臓疾患では脳疾患が20件(60.6%),心臓疾患が13件(39.4%)であり,それぞれ脳梗塞と心筋梗塞が多かった.精神障害では「気分(感情)障害」が7件(36.8%),「神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」が12件(63.2%)であり,うつ病エピソード,心的外傷後ストレス障害,適応障害が多かった.脳・心臓疾患の事案では,初期段階ではなく重症化してから救急要請を行い,発症から病院までの搬送時間が長くかかるケースがみられた.脳・心臓疾患の負荷要因をみると,「長期間の過重業務」がもっとも多く,労働時間以外の負荷要因では「拘束時間の長い勤務」と「不規則な勤務」が多かった.精神障害の負荷要因をみると,「心理的負荷が極度のもの」に8件が該当した.具体的出来事には,「対人関係」,「事故や災害の体験」,「仕事の量・質」が多くみられた.考察と結論:脳・心臓疾患と精神障害ともに,船員被災者の高齢化の傾向が顕著であった.高年齢労働者の身体機能など高齢者の特性を考慮した対策の重要性が示唆された.また,船員被災者が多様な業種や職種に分布していることが明らかになり,業種や職種の違いに応じた対策の重要性が示された.両事案ともに,長時間の拘束と不規則な勤務が常態化していることが確認された.本研究から,過酷な労働環境と自然環境に対峙する船員の過労死等の予防・抑制に向けて,陸上の事業場からの組織的支援,ICTを活用した医療支援や運航支援の強化などの取組みの重要性が示唆された. |
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ISSN: | 1341-0725 1349-533X |
DOI: | 10.1539/sangyoeisei.2024-018-E |