イオン交換高速液体クロマトグラフィーを用いたホルスタイン種成乳牛のリポタンパク質分画測定の有用性の検討

乳牛は脂質代謝が盛んに行われる.近年,ヒトにおいてイオン交換高速液体クロマトグラフィー(AEX-HPLC)法で高密度リポタンパク質(HDL-C),低密度リポタンパク質(LDL-C),中間密度リポタンパク質(IDL-C)および超低密度リポタンパク質(VLDL-C)を迅速かつ正確に測定できるようになった.しかし,牛においてAEX-HPLC法による解析は応用されていない.本研究ではAEXHPLC法による牛リポタンパク質分画測定の基礎的検討を行った.HDL-CおよびLDL-Cは,クロマトグラムにおいて溶出分画が明確に分離され,同時および日差再現性において変動係数(CV)10%未満と良好な結果が得られ,...

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Published in産業動物臨床医学雑誌 Vol. 8; no. 2; pp. 67 - 85
Main Author 高橋, 知也
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会 01.11.2017
日本家畜臨床学会・大動物臨床研究会
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Summary:乳牛は脂質代謝が盛んに行われる.近年,ヒトにおいてイオン交換高速液体クロマトグラフィー(AEX-HPLC)法で高密度リポタンパク質(HDL-C),低密度リポタンパク質(LDL-C),中間密度リポタンパク質(IDL-C)および超低密度リポタンパク質(VLDL-C)を迅速かつ正確に測定できるようになった.しかし,牛においてAEX-HPLC法による解析は応用されていない.本研究ではAEXHPLC法による牛リポタンパク質分画測定の基礎的検討を行った.HDL-CおよびLDL-Cは,クロマトグラムにおいて溶出分画が明確に分離され,同時および日差再現性において変動係数(CV)10%未満と良好な結果が得られ,希釈直線性において良好な直線が描かれた.また,AEX-HPLC法と超遠心分離法およびゲルろ過(GP-)HPLC法と測定値を比較したところ,有意な正相関が確認された.以上より,AEX-HPLC法を用いて牛リポタンパク質分画の測定は有用であることが判明した.次にAEX-HPLC法を用いて管内の泌乳量および繁殖成績が優良なS酪農家と不良なⅠ酪農家で,飼養された牛群間で泌乳ステージごとのリポタンパク質分画の比較を行った.LDL-CのTotal-Cに占める割合(LDL-C/Total-C,%)は2群間で有意な違いが認められ,S酪農家では,初期から中期にかけて上昇し,後期以降低下した.一方,Ⅰ酪農家では初期から乾乳期まで大きな変動を示すことなく推移した.これはS酪農家における泌乳量増加により,乳腺への中性脂肪(TG)の運搬が盛んに行われる結果,VLDL →IDL →LDLという代謝経路が活性化したことが考えられた.最後に分娩前後の脂質代謝に着目し,AEX-HPLC法を用いて健常牛のリポタンパク質分画推移の参考値を算出した後,周産期疾患発症牛19頭のリポタンパク質分画測定値との関連性を調査した.AEX-HPLC法は,超遠心分離法ではできなかった分娩後の肝臓からのTG動員の遅れを検出した.周産期疾患発症牛と健常牛の比較では,脂肪肝群および乳熱群においてHDL-CおよびLDL-Cが低値を示す傾向が認められた.LDL-Cの低値は肝臓からのVLDL-Cによる脂質排出低下を予測し,治療の介入に利用できる可能性が示唆された.
ISSN:1884-684X
2187-2805
DOI:10.4190/jjlac.8.67