大理石骨病マウスにおけるエナメル質形成不全の微細構造学的解析
大理石骨病は石灰化軟骨, 海綿骨, 皮質骨の吸収不全による骨硬化症を惹起する遺伝性の疾患である.マウスで発症するosteosclerosis (oo/oc) では, 破骨細胞分化は阻害されないが, 破骨細胞の微細構造が変化し, 波状縁を失うことによって骨吸収能が抑制される.著者はosteos-clerosisでは歯の萌出が阻害されることに注目し, osteosclerosisが歯胚の発生過程を研究する実験モデルの1つに成りうると考え, oo/ooマウスのエナメル質形成を微細構造学的に解析した.oc/ocマウスの歯胚の光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡観察では, エナメル質に広範囲にわたる基質減形...
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Published in | 昭和歯学会雑誌 Vol. 25; no. 4; pp. 239 - 248 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
昭和大学・昭和歯学会
2005
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ISSN | 0285-922X 2186-5396 |
DOI | 10.11516/dentalmedres1981.25.239 |
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Summary: | 大理石骨病は石灰化軟骨, 海綿骨, 皮質骨の吸収不全による骨硬化症を惹起する遺伝性の疾患である.マウスで発症するosteosclerosis (oo/oc) では, 破骨細胞分化は阻害されないが, 破骨細胞の微細構造が変化し, 波状縁を失うことによって骨吸収能が抑制される.著者はosteos-clerosisでは歯の萌出が阻害されることに注目し, osteosclerosisが歯胚の発生過程を研究する実験モデルの1つに成りうると考え, oo/ooマウスのエナメル質形成を微細構造学的に解析した.oc/ocマウスの歯胚の光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡観察では, エナメル質に広範囲にわたる基質減形成と石灰化不全が認められた.石灰化不全を来したエナメル質の石灰化度の有意な変化は, 反射電子像を基にしたX線分析でも確認された.エナメル質石灰化不全の発現は, 歯槽骨吸収の阻害とは直接関係しなかった.そこで基質減形成あるいは石灰化不全エナメル質の形成に関わるエナメル芽細胞を, 基質形成期から成熟期にかけて透過型電子顕微鏡で観察した.光顕的に正常に観察された基質形成初期のエナメル芽細胞は電顕的にも規則的な細胞層を形成し, 正常な細胞極性も観察されたが, トームス突起の近位端と遠位端の形質膜に膜陥入が全く観察されなかった.基質形成期中期のエナメル芽細胞は, 細胞層の形成, 細胞間の結合状態, トームス突起の形態などが規則的な構造を示し, 粗面小胞体とゴルジ装置の構造発達は良く, 多くの分泌穎粒形成が観察された.トームス突起内には分泌穎粒が多く, トームス突起基部の細胞間隙への放出像も観察されたが, 膜陥入はトームス突起の近位端と遠位端ともに観察されなかった.非脱灰切片の電子顕微鏡観察では, トームス突起付近でのアパタイト結晶の沈着が明らかに減少していた.したがって形成期エナメル芽細胞のトームス突起の膜陥入の消失は, エナメル基質減形成 (すなわち分泌阻害) よりもむしろCa2+の能動輸送に必要な細胞表面積の減少に関係し, 石灰化不全の一因になったものと推測された.また成熟期エナメル芽細胞の遠位端には波状縁が観察され, その細胞間隙にはエナメル基質が観察された.エナメル基質の残存は, エナメル質の石灰化不全に相関するものと考えられた.これに対し, 基質減形成の部位のエナメル芽細胞は細胞体の丈が短く, 細胞内に多くのライソゾーム (自家食胞) と空胞が観察され, トームス突起の形態も著しく不規則であった.以上の観察結果から, oc/ocマウスにおけるエナメル芽細胞の細胞学的特徴は能動輸送に関与する膜陥入の形成阻害とその機能抑制, また分泌細胞としての細胞構造の阻害にあり, それぞれ石灰化不全と基質減形成の原因になると考えられた.したがってoc/ocマウスは, 遺伝性骨疾患の研究のみならず, エナメル質減形成および石灰化不全を含めた歯胚の発生過程の実験的モデルとしても有用なものであることが示唆された. |
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ISSN: | 0285-922X 2186-5396 |
DOI: | 10.11516/dentalmedres1981.25.239 |