比較的少量のシスプラチン累積投与後に発症した耳鳴症状に対して各種聴覚検査による経過観察を行った1例

聴覚障害では加齢性難聴を代表とする高周波数の聴力低下が占める割合が高いが, 高音域の難聴は会話ではあまり不自由を感じない。 したがって, 低音から中音域が正常聴力に近い高音障害型感音難聴の患者が耳鼻咽喉科を受診する主訴としては難聴ではなく, 難聴付随症状としての耳鳴が多い。 高音障害型感音難聴を引き起こす薬剤として, 多くの悪性腫瘍の治療に使用されている抗癌剤であるシスプラチンがよく知られている。 シスプラチンの累積投与量が 300 mg/m2 を超過すると感音難聴の発生頻度が高くなるとされているが, 比較的少量のシスプラチン投与によっても聴覚障害が発症することはある。 今回われわれは, 肺癌...

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Published in耳鼻咽喉科展望 Vol. 64; no. 6; pp. 331 - 338
Main Authors 小島, 博己, 伊藤, 三郎, 宇田川, 友克, 櫻井, 結華, 沼田, 尊功, 高橋, 恵里沙, 北村, 佳奈, 志村, 英二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 耳鼻咽喉科展望会 15.12.2021
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ISSN0386-9687
1883-6429
DOI10.11453/orltokyo.64.6_331

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Summary:聴覚障害では加齢性難聴を代表とする高周波数の聴力低下が占める割合が高いが, 高音域の難聴は会話ではあまり不自由を感じない。 したがって, 低音から中音域が正常聴力に近い高音障害型感音難聴の患者が耳鼻咽喉科を受診する主訴としては難聴ではなく, 難聴付随症状としての耳鳴が多い。 高音障害型感音難聴を引き起こす薬剤として, 多くの悪性腫瘍の治療に使用されている抗癌剤であるシスプラチンがよく知られている。 シスプラチンの累積投与量が 300 mg/m2 を超過すると感音難聴の発生頻度が高くなるとされているが, 比較的少量のシスプラチン投与によっても聴覚障害が発症することはある。 今回われわれは, 肺癌術後に導入された補助化学療法中に, シスプラチンの累積投与量が 160 mg/m2 と比較的少量である段階で耳鳴が発症した症例を経験した。 純音聴力検査では高音障害型の感音難聴, また, 歪成分耳音響放射 distortion product otoacoustic emission (DPOAE) では高周波数の distortion product level の低下を呈しており, シスプラチン投与による蝸牛障害に付随した耳鳴と考えられた。 シスプラチンの累積投与量の増加とともに高音障害型感音難聴は進行した。 蝸牛障害を評価する歪成分耳音響放射の distortion product level と信号対雑音比 (sound noise 比) はともに低下し, また, 耳鳴の自覚症状を表す tinnitus handicap inventory (THI) スコアは悪化した。 シスプラチン投与症例の聴覚評価には純音聴力検査だけではなく, 歪成分耳音響放射や tinnitus handicap inventory 等を含む種々の検査を複合的に施行することが有用であると考えられた。
ISSN:0386-9687
1883-6429
DOI:10.11453/orltokyo.64.6_331