ケースコントロールデザインとデータベース研究

ケースコントロール(症例対照)デザインは疫学研究で最も汎用される観察研究のデザインの一つである.研究対象集団から興味のあるアウトカムの発症者(ケース)と非発症者(コントロール)を特定し,ケースとコントロールのそれぞれにおける過去の曝露要因の分布を調べオッズ比を算出する.予想されるアウトカムの発症率が小さい場合には,コホートデザインでは解析に必要なアウトカム発症数を確保するために膨大な数の対象者を発症まで十分な期間追跡する必要があり負担が大きい.ケースコントロールデザインでは,既にあるケースとコントロールを特定し(サンプリングという)利用することでコホートデザインのようにアウトカムの発症を待つ必...

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Published in薬剤疫学 Vol. 28; no. 2; pp. 57 - 72
Main Author 漆原, 尚巳
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本薬剤疫学会 31.10.2023
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ISSN1342-0445
1882-790X
DOI10.3820/jjpe.28.57

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Summary:ケースコントロール(症例対照)デザインは疫学研究で最も汎用される観察研究のデザインの一つである.研究対象集団から興味のあるアウトカムの発症者(ケース)と非発症者(コントロール)を特定し,ケースとコントロールのそれぞれにおける過去の曝露要因の分布を調べオッズ比を算出する.予想されるアウトカムの発症率が小さい場合には,コホートデザインでは解析に必要なアウトカム発症数を確保するために膨大な数の対象者を発症まで十分な期間追跡する必要があり負担が大きい.ケースコントロールデザインでは,既にあるケースとコントロールを特定し(サンプリングという)利用することでコホートデザインのようにアウトカムの発症を待つ必要がなく,より少数の研究対象者にて曝露と解析に用いる調整変数を調査することで調査に係る労力を節減し,比較的短時間に効率的に曝露要因によるアウトカム発症への影響を検討できることが利点である.従来の観察研究では,調査対象者の曝露とアウトカム,調整変数の情報を収集するために用いる調査票の回収コストは莫大であるため,ケースコントロールデザインを用いて調査対象者数を削減する意義は確かに大きい.近年行われるようになった大規模医療情報データベースを用いた多くの観察研究では,当初のデータソースのみから研究対象者を完全に把握でき,必要なすべてのデータの収集,解析まで完結し,追加データを得るための調査は必要とされないが,前述のケースコントロールデザインの有用性,効率性は通用するのであろうか.本稿では,最初にケースコントロールデザインの基本事項を解説し,続けてデータベースを観察研究のデータソースとして用いる場合に,ケースコントロールデザインを選択することの利便性と,その適切な利用について論じたい.
ISSN:1342-0445
1882-790X
DOI:10.3820/jjpe.28.57