抗原特異的IgE抗体陽性率と食物アレルギーの実態

はじめに:本邦ではアレルギー疾患が増加しており,近年では成人型食物アレルギーの有病率も増加傾向である。中でも花粉と果物が持つ共通コンポーネントによる口腔アレルギー症候群(花粉-食物アレルギー症候群,pollen-food allergy syndrome, PFAS)は食物アレルギーの特殊型で,多くは症状が口腔咽喉頭に限局しており,看過されてしまうことが少なくない。中にはアナフィラキシー症状など重篤な全身症状を引き起こす場合もあるため注意が必要である。今回,我々は関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科外来患者の食物アレルゲンと吸入アレルゲンの陽性率と実際に口腔・咽頭粘膜症状を発症している患者の...

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Published in日本鼻科学会会誌 Vol. 60; no. 4; pp. 485 - 494
Main Authors 東山, 由佳, 井原, 遥, 濱田, 聡子, 杉田, 侑己, 桑原, 敏彰, 森田, 瑞樹, 下野, 真紗美, 朝子, 幹也, 岩井, 大, 宇都宮, 敏生, 河内, 理咲
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本鼻科学会 2021
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Summary:はじめに:本邦ではアレルギー疾患が増加しており,近年では成人型食物アレルギーの有病率も増加傾向である。中でも花粉と果物が持つ共通コンポーネントによる口腔アレルギー症候群(花粉-食物アレルギー症候群,pollen-food allergy syndrome, PFAS)は食物アレルギーの特殊型で,多くは症状が口腔咽喉頭に限局しており,看過されてしまうことが少なくない。中にはアナフィラキシー症状など重篤な全身症状を引き起こす場合もあるため注意が必要である。今回,我々は関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科外来患者の食物アレルゲンと吸入アレルゲンの陽性率と実際に口腔・咽頭粘膜症状を発症している患者の検討を行い,口腔アレルギー症候群の危険因子となる背景を検証した。対象:2018年4月1日~2019年4月30日の期間にView39アレルギー検査を実施した関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来患者計277症例方法:吸入アレルゲンと食物アレルゲンの感作率(View39でclass1以上)と各吸入アレルゲン同士の相関,口腔アレルギー症候群の有病率について検討した。また初診時の血中好酸球数,血清総IgE値,患者の主訴や背景,実際に口腔・咽頭粘膜症状を呈した患者の背景についても検討を行った。さらに口腔アレルギー症候群の有病・非有病に対してロジスティック回帰分析を行い,統計学的に影響を与えうる吸入アレルゲンについて検討を行った。なお,上記項目は外来担当医の問診を元に診療録記載から判断した。結果:口腔・咽頭粘膜症状を呈する例は277例中15例であった。そのうち全例で口腔咽頭の刺激感や掻痒感の局所症状を呈していたが,中には全身症状を呈する重篤な症例も認めた。原因となる実際の食物はリンゴなどバラ科食物が多かったが,キウイやバナナも挙げられた。花粉吸入アレルゲンは2種類以上の重複感作例が多く,中でもカバノキ科感作が高い感作率であった。好酸球数と総IgE値は症状の有無で有意差は認めなかった。口腔アレルギー症候群の有病・非有病に対して行ったロジスティック回帰分析を行いオッズ比の検討を行ったが花粉アレルゲン,特にカバノキ科で有意にオッズ比が高かった。またその他の吸入アレルゲンにも多重感作している例が多かった。考察:口腔アレルギー症候群の発症にはカバノキ科への感作が重要であり,その他の吸入アレルゲンへの多重感作も統計学的に影響を与えうる可能性が示唆された。結論:特異的IgE抗体測定によって明らかになったカバノキ科感作や多重感作症例に対しては口腔・咽頭粘膜症状の有無を問診で行うことによって,口腔アレルギー症候群を有しているにも関わらず症状を訴えない潜在的な患者の検索を行える可能性があると考えた。耳鼻咽喉科医として一定数上記のような患者がいることに留意すべきであり,そのような患者には丁寧な問診と適切な治療・指導を行うことで,軽微な症状をはじめ重篤な全身症状までを予防・回避することに繋がると考えられた。
ISSN:0910-9153
1883-7077
DOI:10.7248/jjrhi.60.485