中国の森林をめぐる重層的権利関係の意義と課題――資源利用の効率性・公平性・持続性からの考察

中国では,林地所有権,林地使用権(請負経営権),林木所有権,および各種事業の賃借権といった権利関係を保有する主体によって,木材生産のみならず,非木質林産物の採取・栽培,土地保全事業,農地・工業用地・宅地への転用,観光リゾート開発等,様々な森林への働きかけが行われつつある。この重層的権利関係に基づく森林利用は,資源利用の効率性,公平性,持続性という複数の評価基準において,深刻な「せめぎ合い」の構図を生み出している。すなわち,現在の中国各地では,各権利を活用した「林地をめぐる様々な主体の価値・便益の最大化」が図られており,この意味において資源利用の効率性が高められている。しかし同時に,それぞれの権...

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Published in環境社会学研究 Vol. 20; pp. 149 - 164
Main Author 平野, 悠一郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 環境社会学会 10.12.2014
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ISSN2434-0618
DOI10.24779/jpkankyo.20.0_149

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Summary:中国では,林地所有権,林地使用権(請負経営権),林木所有権,および各種事業の賃借権といった権利関係を保有する主体によって,木材生産のみならず,非木質林産物の採取・栽培,土地保全事業,農地・工業用地・宅地への転用,観光リゾート開発等,様々な森林への働きかけが行われつつある。この重層的権利関係に基づく森林利用は,資源利用の効率性,公平性,持続性という複数の評価基準において,深刻な「せめぎ合い」の構図を生み出している。すなわち,現在の中国各地では,各権利を活用した「林地をめぐる様々な主体の価値・便益の最大化」が図られており,この意味において資源利用の効率性が高められている。しかし同時に,それぞれの権利を保有する主体間,特に企業・集団・地方政府と農民世帯において便益分配の不公平が発生し,資源利用の公平性が損なわれる傾向が見られ,その是正が「集団林権制度改革」等を通じて政策的に図られている。一方,それぞれの権利主体の便益追求が,結果として林地の過剰利用を招くことにもなっており,資源利用の持続性が脅かされている。このため,今後,政策的な規制・管理の強化による対策コスト上昇が避けられない趨勢にある。
ISSN:2434-0618
DOI:10.24779/jpkankyo.20.0_149