長期負債の返済と雇用水準の変化

本稿では,長期負債の返済のタイミングにおける雇用水準の変化を分析することで,企業が資金調達を目的として雇用水準を変化させるのかを検証する.2000年度から2018年度までの45,630企業/年を用いた分析の結果,長期負債の返済と雇用水準の変化は負の関係にあることがわかった.具体的には,次期に長期負債の返済を迎える企業はそうでない企業と比較して,当期の雇用水準が減少しているもしくはその増加が抑制されていることが確認された.このような傾向は,財務情報の質が高いほど,また銀行企業間関係が強いほど弱くなることも確認された.さらに,長期負債の返済と雇用水準との間の負の関係に財務情報の質が与える影響は,銀...

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Published in現代ファイナンス Vol. 45; pp. 59 - 87
Main Authors 金, 鉉玉, 藤谷, 涼佑
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ファイナンス学会 MPTフォーラム 31.05.2022
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ISSN2433-4464
DOI10.24487/gendaifinance.450001

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Summary:本稿では,長期負債の返済のタイミングにおける雇用水準の変化を分析することで,企業が資金調達を目的として雇用水準を変化させるのかを検証する.2000年度から2018年度までの45,630企業/年を用いた分析の結果,長期負債の返済と雇用水準の変化は負の関係にあることがわかった.具体的には,次期に長期負債の返済を迎える企業はそうでない企業と比較して,当期の雇用水準が減少しているもしくはその増加が抑制されていることが確認された.このような傾向は,財務情報の質が高いほど,また銀行企業間関係が強いほど弱くなることも確認された.さらに,長期負債の返済と雇用水準との間の負の関係に財務情報の質が与える影響は,銀行企業間関係が弱い企業で強くなることも明らかになった.これらの発見は,代替的な資金調達のコストが高い企業ほど,雇用水準を変化させることで資金調達を行う傾向にあるという仮説と整合する.そして,この資金調達を目的とした雇用水準の変化に与える影響という点において,財務情報の質と銀行企業間関係とが代替的な関係にあることを示唆している.
ISSN:2433-4464
DOI:10.24487/gendaifinance.450001