外傷性第2頸髄損傷からBrown-Sequard syndromeを呈した症例 ~歩行自立へ向けた理学・装具療法の検討

【目的】Brown-Sequard Syndrome (以下BSS)は,脊髄半側の障害により,障害側同側の運動麻痺や対側の温痛覚障害を認める不全脊髄損傷の一種である.また不全脊髄損傷は,運動・感覚機能の不完全な残存から正確な評価と適切な目標設定が重要だが,当院では,症例数の少なさから各個人手探りで予後予測を立てている現状である.今回外傷性第2頸髄損傷からBSSを呈した症例に対して,様々な理学療法の展開と装具療法の介入に より歩行自立へ至ったため経過を報告する. 【症例紹介】80代女性,変形性腰椎症の既往歴あり,病前の生活自立.転落による軸椎脱臼骨折・第2頸髄損傷 (X日)にて,損傷髄節以下の右...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2024; p. 201
Main Author 吉澤, 穰
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2024
Kyushu Physical Therapy Association
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2024.0_201_1

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Summary:【目的】Brown-Sequard Syndrome (以下BSS)は,脊髄半側の障害により,障害側同側の運動麻痺や対側の温痛覚障害を認める不全脊髄損傷の一種である.また不全脊髄損傷は,運動・感覚機能の不完全な残存から正確な評価と適切な目標設定が重要だが,当院では,症例数の少なさから各個人手探りで予後予測を立てている現状である.今回外傷性第2頸髄損傷からBSSを呈した症例に対して,様々な理学療法の展開と装具療法の介入に より歩行自立へ至ったため経過を報告する. 【症例紹介】80代女性,変形性腰椎症の既往歴あり,病前の生活自立.転落による軸椎脱臼骨折・第2頸髄損傷 (X日)にて,損傷髄節以下の右半身運動麻痺と左半身温痛覚障害 (改良Frankel B3)を呈し,X+52当院回復期リハビリテーション病棟へ転院となった. 【経過】X+53:改良Frankel C1,ASIA Impairment Scale(以下AIS)C,下肢筋力(以下LEMS)23点(Rt6・Lt17),下肢運動覚 Rt軽度鈍麻/Lt正常,Patellar Tendon Reflex (以下PTR)Rt-/Lt++,Trunk Control Test (以下TCT)12点,Walking Index for Spinal Cord InjuryⅡ(以下WISCIⅡ)0点.当院長下肢装具装着下の立位・歩行練習を開始(平均歩行距離350m)した.X+90:LEMS30点(Rt11・Lt19),下肢運動覚 Rt正常,PTR Rt+/Lt++,TCT61点,Berg Balance Scale (以下BBS)8点,WISCIⅡ5点.サイドケイン歩行は,Extension Thrust Pattern(以下ETP)から不安定性あり,段階的な膝立ち・静的立位バランス練習の追加と短下肢装具を選定した.X+120:LEMS39点(Rt16・Lt23),PTR Rt+++/Lt++,TCT74点,BBS24点,WISCIⅡ9点.作成したタマラック継手付プラスチック短下肢装具 (以下タマラック装具)歩行は,ETP改善したため,歩行器を使用して歩行量を増大 (平均歩行距離600m)した.また歩行の恐怖心と姿勢制御の遅延が残存したため,動的立位バランス練習や応用歩行練習を追加した.X+181:改良Frankel D2,AIS D,LEMS45点(Rt20・Lt25),PTR Rt+++/Lt++,TCT87点,BBS41点,WISCIⅡ15点.歩行器歩行は,病棟内自立,Q-cane歩行は,短距離自立(10m歩行34.3秒)となった.感覚(X+54→X+181)は,触覚61点→112点,痛覚64点→87点と痛覚鈍麻のみ残存した. 【考察】福田らは,頸髄損傷患者において受傷後1.7±1.8日で改良Frankel B3レベル (痛覚不全麻痺)なら80%が,歩行可能になったと報告している.本症例は,急性期からB3レベルでBSSから運動機能を有する部位が多く歩行可能 (X+90)となった.しかしサイドケイン歩行は,初期接地~立脚中期にETPを認め実用的ではなかった.今回タマラック装具の特徴である背屈遊動から初期接地時の安定した踵接地が得られたことで,腓腹筋の過剰収縮の軽減・下腿の前傾を引き出しETP改善に繋がったと考える.また井上らは,脊髄損傷患者の歩行能力を向上させる治療法において,課題特異性・運動量依存・皮質脊髄路による運動調節・実現可能性が重要と報告している.今回タマラック装具と歩行器を使用したことで,課題特異的かつ難易度の調整と運動量を担保した歩行練習が長期的に実施できた.そして姿勢制御の学習による随意運動の反復から内部モデルの更新が図れたことと中枢神経系への賦活も加わり,本症例は,歩行自立となったと考察する. 【検討事項】当院は,脊髄疾患に対するリハビリプロトコルはなく,理学療法また装具の各内容に個人差がある.本症例が,仮に貴院で入院した場合の理学療法・装具の各内容について検討して頂きたい. 【倫理的配慮】本発表は,ヘルシンキ宣言に基づき対象者に書面及び口頭にて発表の趣旨を説明し,同意を得た.
Bibliography:CS1-1
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2024.0_201_1