中新統葉山層の化学合成動物群集の生息環境と三浦・房総地域新生界の群集

化学合成細菌依存の底生動物化石群集は, 三浦・房総地域の10層準から知られている.三浦半島では, 1)葉山層(15Ma)の群集はAcharaxを多産することで特徴づけられる.2)三崎層(12Ma)の群集はCalyptogenaとAcharaxの稚貝が凝灰質シルト岩中のコンクリーションに含まれる.3)池子層(3.5Ma)の群集はCalyptogenaが炭酸塩凝灰岩や凝灰岩に密集し, シルト岩にも散在する.4)浦郷層(2.0Ma)の群集はCalyptogenaが凝灰岩に産する.5)野島層(1.9〜1.8Ma)の群集はCalyptogenaが凝灰岩中に産する.6)小柴層(1.7Ma)の群集はLuci...

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Published in化石 Vol. 60; pp. 53 - 58
Main Author 蟹江, 康光
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本古生物学会 1996
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ISSN0022-9202
2424-2632
DOI10.14825/kaseki.60.0_53

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Summary:化学合成細菌依存の底生動物化石群集は, 三浦・房総地域の10層準から知られている.三浦半島では, 1)葉山層(15Ma)の群集はAcharaxを多産することで特徴づけられる.2)三崎層(12Ma)の群集はCalyptogenaとAcharaxの稚貝が凝灰質シルト岩中のコンクリーションに含まれる.3)池子層(3.5Ma)の群集はCalyptogenaが炭酸塩凝灰岩や凝灰岩に密集し, シルト岩にも散在する.4)浦郷層(2.0Ma)の群集はCalyptogenaが凝灰岩に産する.5)野島層(1.9〜1.8Ma)の群集はCalyptogenaが凝灰岩中に産する.6)小柴層(1.7Ma)の群集はLucinomaなどが炭酸塩で固結され, 下部では砂質凝灰岩に散在する.房総半島では, 1)青木山層(18Ma)の群集はAcharaxが炭酸塩岩中に産する.2)白間津層(3.5Ma)の群集はCalyptogenaが凝灰岩中に.3)黒滝層(2Ma)の群集はCalyptogenaが凝灰岩中に産する.4)名洗層(1.9〜1.6Ma)ではCalyptogenaが凝灰岩中に見られる.5)柿ノ木台層(0.9Ma)の群集はLucinomaなどが炭酸塩凝灰岩・凝灰岩に産出する.葉山層の化石群集は, 多量のAcharaxとチューブワーム, そしていくらかのCalyptogena, Lucinoma, Conchocele, チューブワーム, カニの関節などから構成され, 断層帯に沿って, 粘土岩起源の角礫からなる炭酸塩岩と破砕された粘土岩中に存在する.堆積物の分布と地質構造との関係は, 現在の相模トラフの様子に酷似しており, この断層帯は, 中期中新世のプレート境界に起因する地質構造帯であろう.化石動物群集は, キヌタレガイ類を主構成とし, 相模湾の大陸棚斜面の麓付近の中部漸深海帯の泥中に生息する化学合成動物コミュニティ(群集)に比較されるが, 現生のシロウリガイを主とする化学合成動物コミュニティや, 他海域のツキガイモドキやオウナガイ属を主とするコミュニティとは属種の構成が異なる.軟体動物と共産する底生有孔虫群集による古水深は1200〜1600m(中部漸深海帯の中部)であり, 相模湾のシロウリガイコミュニティの生息深度にほぼ一致している.また, チューブワームの化石の生管部および生管内部にイオウ(S)が局在し, イオウの酸化還元に関する代謝が行われていたことを示唆する.現世のコミュニティが生息する付近には炭酸塩岩が存在することから, コロニィをつくる動物が生息できる底質は, メタンを含む湧水が供給され, 石灰化されやすい底質であったといえる.葉山層の炭酸塩岩の炭素同位体比は, 低いマイナス値を示し, メタン起源の炭素であったことを示している.現在の沈み込み帯や付加体等で採集された炭酸塩岩は冷湧水起源のメタンによる硫酸還元により生成され, 動物群集はメタンや硫化水素のエネルギーに依存して生活していた独立栄養生物群集である.葉山層・保田層群の炭酸塩岩と独立栄養動物群集を形成したトラフ状の環境は, 沈み込みの位置を変えながら現在の相模トラフに至まで15Maの間存続していたといえる.すなわち, 18〜15Maの三浦・房総半島は, 中部漸深海帯の中部の海底でのプレートの境界付近にあり, 12〜3.5Maの三浦層群と3.5〜約1Maの千倉層群の時代にはさらに深い下部漸深海〜深海帯にあったが, 3.0〜0.5Maの上総層群およびそれ以降は粗粒凝灰岩が供給される現在の相模トラフの海底環境に近づいたことを示唆している.
ISSN:0022-9202
2424-2632
DOI:10.14825/kaseki.60.0_53