PADguideline総論/せん妄と睡眠のマネジメント

重症患者の管理では今もってバイタルサインや検査データの安定化が優先され、 患者の痛みや不安を軽減し安楽な療養を提供することは後回しになりがちである。 しかしICUにおけるせん妄と患者の予後不良の関連が示され、かつせん妄は患者へ の様々なストレスが要因となっている可能性が指摘されるようになった。そのストレス とはチューブや外科処置による痛み、異質な環境、鎮静や抑制帯による安静の強要、 死への恐怖や不安などであり、医療行為がせん妄を招き状態を悪化させうるという ことが明らかになったのである。そのため患者を中心に推奨項目を決める新たな鎮 痛・鎮静のガイドラインが2013年に米国で策定された。これがP...

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Published inThe Nursing Pharmacology Conference Vol. 2018.1; p. S2-1
Main Author 長谷川, 隆一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本薬理学会 2018
Japanese Pharmacological Society
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ISSN2435-8460
DOI10.34597/npc.2018.1.0_S2-1

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Abstract 重症患者の管理では今もってバイタルサインや検査データの安定化が優先され、 患者の痛みや不安を軽減し安楽な療養を提供することは後回しになりがちである。 しかしICUにおけるせん妄と患者の予後不良の関連が示され、かつせん妄は患者へ の様々なストレスが要因となっている可能性が指摘されるようになった。そのストレス とはチューブや外科処置による痛み、異質な環境、鎮静や抑制帯による安静の強要、 死への恐怖や不安などであり、医療行為がせん妄を招き状態を悪化させうるという ことが明らかになったのである。そのため患者を中心に推奨項目を決める新たな鎮 痛・鎮静のガイドラインが2013年に米国で策定された。これがPADガイドラインであ る。PADガイドラインの特徴は薬物投与ありきでなく、患者を中心に苦痛やストレス に対応するための目標が示されている。その冒頭にはすべての患者は痛みを有すると してその対応を最優先にすることが強調され「analgesia first sedation」として推奨 されている。また患者の痛みや不穏をNRSやBPS、RASSやSASといった客観的な 指標で評価し、十分な鎮痛と浅めの鎮静を組み合わせることも推奨されている。さてPA Dは発 表されて5年が経過し、その間のエビデンスを踏まえてこの8月に PA DISガイドラインとして刷新された。PA DISには痛み・不穏・せん妄管理に加 え、早期離床と睡眠 促 進が新たに示された。この背景にはpost-intensive ca re syndrome(PICS)と呼ばれるICU治療後の様々な後遺症が注目されるようになっ たことがある。PICSのために6ヶ月経過しても約1/3の患者が社会復帰できておらず、 PADISでは対応策として早期離床と睡眠促進によるせん妄予防などが追加された。 一方ガイドラインで推奨される薬物はそれほど多くはない。鎮痛薬としてはオピオイド とNSAIDsやアセトアミノフェン、ケタミンが、鎮静薬としてはプロポフォールとデクス メデトミジン(DEX)が推奨され、ベンゾジアゼピンは限定的な使用とされた。せん 妄に関しては予防に有効な薬剤はなく、治療についても抗精神薬は推奨されず、不穏 が強い場合にDEXを用いるとした。また睡眠管理については推奨薬剤はなく、各施 設でプロトコルを作成して対応すべきとした。このように痛みや不穏、せん妄、睡眠障害といった患者の有害な症状を緩和するこ とで予後の改善が期待できるが、根拠のある薬剤は少数であり非薬物療法と合わせ て多面的な取り組みが必要である。
AbstractList 重症患者の管理では今もってバイタルサインや検査データの安定化が優先され、 患者の痛みや不安を軽減し安楽な療養を提供することは後回しになりがちである。 しかしICUにおけるせん妄と患者の予後不良の関連が示され、かつせん妄は患者へ の様々なストレスが要因となっている可能性が指摘されるようになった。そのストレス とはチューブや外科処置による痛み、異質な環境、鎮静や抑制帯による安静の強要、 死への恐怖や不安などであり、医療行為がせん妄を招き状態を悪化させうるという ことが明らかになったのである。そのため患者を中心に推奨項目を決める新たな鎮 痛・鎮静のガイドラインが2013年に米国で策定された。これがPADガイドラインであ る。PADガイドラインの特徴は薬物投与ありきでなく、患者を中心に苦痛やストレス に対応するための目標が示されている。その冒頭にはすべての患者は痛みを有すると してその対応を最優先にすることが強調され「analgesia first sedation」として推奨 されている。また患者の痛みや不穏をNRSやBPS、RASSやSASといった客観的な 指標で評価し、十分な鎮痛と浅めの鎮静を組み合わせることも推奨されている。さてPA Dは発 表されて5年が経過し、その間のエビデンスを踏まえてこの8月に PA DISガイドラインとして刷新された。PA DISには痛み・不穏・せん妄管理に加 え、早期離床と睡眠 促 進が新たに示された。この背景にはpost-intensive ca re syndrome(PICS)と呼ばれるICU治療後の様々な後遺症が注目されるようになっ たことがある。PICSのために6ヶ月経過しても約1/3の患者が社会復帰できておらず、 PADISでは対応策として早期離床と睡眠促進によるせん妄予防などが追加された。 一方ガイドラインで推奨される薬物はそれほど多くはない。鎮痛薬としてはオピオイド とNSAIDsやアセトアミノフェン、ケタミンが、鎮静薬としてはプロポフォールとデクス メデトミジン(DEX)が推奨され、ベンゾジアゼピンは限定的な使用とされた。せん 妄に関しては予防に有効な薬剤はなく、治療についても抗精神薬は推奨されず、不穏 が強い場合にDEXを用いるとした。また睡眠管理については推奨薬剤はなく、各施 設でプロトコルを作成して対応すべきとした。このように痛みや不穏、せん妄、睡眠障害といった患者の有害な症状を緩和するこ とで予後の改善が期待できるが、根拠のある薬剤は少数であり非薬物療法と合わせ て多面的な取り組みが必要である。
Author 長谷川, 隆一
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  fullname: 長谷川, 隆一
  organization: 獨協医科大学埼玉医療センター 集中治療科 教授
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