小脳病変により垂直軸認知の障害を有した1症例~垂直軸認知の評価と治療アプローチについて

【はじめに】 身体が傾斜する現象として,座位姿勢などで病巣と同側に傾倒するlateropulsion(以下,LP)があり,その責任病巣は延髄外側とされる.このLPの機序の1つとして,脊髄小脳路の障害が示唆されているが,小脳病変におけるLPの報告は少ない.今回,小脳出血後にLPに類似した症状だが,LPと相違し病巣と反対側への傾倒を認めた症例を経験し評価・治療する機会を得たので報告する. 【症例】 62歳,女性,右手利き.小脳出血(左小脳半球・虫部,血腫量26ml)を発症し,翌日に血腫ドレナージ術を施行,第3病日から理学療法(以下,PT)を開始.脳血流検査(第25病日)では左小脳,左頭頂葉皮質,左...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 Vol. 31; p. 172
Main Authors 高石, 真二郎, 藤野, 雄次, 網本, 和, 播本, 真美子, 井上, 真秀, 細谷, 学史
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2012
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.31.0_172

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Summary:【はじめに】 身体が傾斜する現象として,座位姿勢などで病巣と同側に傾倒するlateropulsion(以下,LP)があり,その責任病巣は延髄外側とされる.このLPの機序の1つとして,脊髄小脳路の障害が示唆されているが,小脳病変におけるLPの報告は少ない.今回,小脳出血後にLPに類似した症状だが,LPと相違し病巣と反対側への傾倒を認めた症例を経験し評価・治療する機会を得たので報告する. 【症例】 62歳,女性,右手利き.小脳出血(左小脳半球・虫部,血腫量26ml)を発症し,翌日に血腫ドレナージ術を施行,第3病日から理学療法(以下,PT)を開始.脳血流検査(第25病日)では左小脳,左頭頂葉皮質,左側後部帯状回,両側前頭葉皮質の血流が低下していた.なお,本症例には本研究の主旨を説明し同意を得た. 【方法】 垂直軸測定に基づく治療1週間の前後で,PT評価,視覚的垂直軸(以下,SVV)・身体的垂直軸(以下,SPV)測定を行った.SVV・SPVの測定には垂直軸測定装置を用い,足部を接地させずに座位とし,患者が垂直と認知した位置での傾斜角を計4回測定し,平均値を評価値とした.SVVは開眼条件,SPVは閉眼条件とした. 【結果】 垂直軸測定に基づく治療前(第30病日)のPT評価では,感覚障害は深部・表在共に軽度鈍麻,指鼻指試験・踵膝試験で終末時動揺が著明,Trunk Control Test(以下,TCT)36点,躯幹協調ステージⅣであった.座位・立位で右側に傾倒し,自覚症状もなく保持困難であり,ほとんどの基本動作に介助を要した.垂直軸測定ではSVVが4.3°±1.9°(平均±SD)・SPVが6.5°±3.1°で右に傾いていた.そこで,治療では視覚情報の付与を徹底し,体幹に前額・矢状面上の真の垂直軸認知を促した.治療後(第38病日)は,感覚障害・協調性検査は治療前評価と同様,TCT61点,躯幹協調ステージⅢであり,基本動作は監視レベルとなった.SVVは2.5°±2.4°,SPVは1.5°±1.3°で右への傾きは減少していた. 【考察】 以上の結果より治療1週間前後において,運動機能に著変はなかったものの,基本動作能力・垂直軸認知の改善を認めた.このことから,本症例において垂直軸認知の障害に対し視覚情報の付与が有効であったことが示唆された.また,本症例は身体が傾く方向と垂直軸の傾きが病巣と反対側であるという点でLPと相違しており,大脳半球損傷によって生じる傾きの方向と同様であった.このことから,脳幹病巣と同側の頭頂葉に血流低下が起こるipsilateral supratentorial diaschisisが垂直認知の障害を招いたものと考えられた.
Bibliography:172
ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.31.0_172