小児在宅ケアの包括的支援に向けたコーディネーター教育プログラムの開発

【緒言】近年、入院期間の短縮化に伴い、医療技術を要するケアを行いながら家庭で生活する子どもが増えている。しかし、子どもを取り巻く環境として、少子社会、小児医療の採算性の低さ、専門医の不足を背景に、小児病棟の閉鎖に踏み切る病院は多い。また、退院した子どもの支援として病院、訪問看護ステーション、保健師らの連携が欠かせない中で、高齢者対策を中心とする従来の地域医療においては小児の在宅ケアに対応できる訪問看護ステーションが少ないなど、活用できる社会資源は必ずしも十分ではない。さらに、子どもの障害を告げられることで親は普通の子どもの喪失と共に、自分自身の価値の喪失をも体験する場合があると報告されている(...

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Published inNihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 57; p. 46
Main Authors 村上, 泰子, 堀, 妙子, 奈良間, 美保
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本農村医学会 2008
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
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ISSN1880-1749
1880-1730
DOI10.14879/nnigss.57.0.46.0

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Summary:【緒言】近年、入院期間の短縮化に伴い、医療技術を要するケアを行いながら家庭で生活する子どもが増えている。しかし、子どもを取り巻く環境として、少子社会、小児医療の採算性の低さ、専門医の不足を背景に、小児病棟の閉鎖に踏み切る病院は多い。また、退院した子どもの支援として病院、訪問看護ステーション、保健師らの連携が欠かせない中で、高齢者対策を中心とする従来の地域医療においては小児の在宅ケアに対応できる訪問看護ステーションが少ないなど、活用できる社会資源は必ずしも十分ではない。さらに、子どもの障害を告げられることで親は普通の子どもの喪失と共に、自分自身の価値の喪失をも体験する場合があると報告されている(辻,2003)。子どもの現実を受け止めて在宅ケアに前向きに取り組めるまでに、家族には多くの葛藤が生じることに配慮する必要がある。米国では、医療的ケアを要する子どもと家族の生活上の相談、医療チームの調整等のコーディネーター機能を果たす看護師がいるが(Ito,1999)、国内でそのような看護師の育成は十分に行われていない。そこで、小児在宅ケアの包括的支援を担う人材の育成を目指し平成15年より小児在宅ケアコーディネーター研修会(以下、研修会)を開催している。今回、研修会の教育プログラムの評価と今後の課題を検討したので報告する。 【方法】〔対象〕病床数300床以上で小児科を標榜する一般病院、および小児専門病院に勤務し、研修会に参加した看護師。 〔研究方法〕研修会の前・中・後に看護師に対する無記名自記式質問紙による調査を行い、研修会の評価を行った。質問紙は小児在宅ケアの支援に関する理解・実施・気持ちの26項目、小児在宅ケアに関する考え・取組み・同僚からの期待・小児と家族の反応についての研修生の主観的変化4項目で、4段階のリッカート尺度で回答を求めた(奈良間他,2006)。属性として所属部署や実務経験等を含めた。対象に文書と口頭で研究の目的・方法等を説明し、研修会会場に回収箱を設置して質問紙を回収した。 〔研修会の内容〕小児在宅ケアの包括的支援の実践能力向上を目標に、親子の相互作用や家族機能のアセスメント、発達段階別・経過別看護の基礎知識、家族や行政・医師・臨床心理士・社会福祉士など他職種による講演、事例検討から構成した。第1期研修会は平成15年11月~平成16年11月に5回、第2期研修会は平成17年6月~平成18年2月に4回開催した。 〔倫理的配慮〕研究参加は自由意志によるもので参加しないことによる不利益は被らないこと、データは本研究以外に使用せず、情報漏洩防止に努めることを対象に伝えた。名古屋大学医学部倫理委員会の承認を得て調査を実施した。 【結果】〔第1期研修会の評価〕5回の研修会に参加した看護師は9~14名であった。研修会後に包括的支援の自己評価が向上する者が多く、特に、後半の事例検討後に上昇していた。一方、研修前から看護に対する困難感や不安が強い看護師は肯定的変化を来たしにくいことが見出され、精神的サポートの必要性が示唆された。 〔第2期研修会の評価〕4回の研修会に参加した看護師は47~56名であった。グループ討議を研修内容に加えることでピアポートの向上を図った結果、看護師の包括的支援の理解・実施の能力向上のみならず、ケアに対する肯定的気持ちにつながった。 〔今後の課題〕その後、本研修会は継続的参加を促進するために6ヶ月間の短期型プログラムに変更し、第4期研修会以降は米国で推奨されている患者・家族中心のケアを基本概念に含めた教育プログラムに改訂し現在まで継続している。研修会の一部は一般公開として、訪問看護ステーション看護師や保健師等の参加を得て、活発な討議を行う機会となっている。今後は、研修会修了後の継続的評価や相談への対応、子どもや家族による評価を通じてより効果的な教育プログラムを検討し、地域で暮らす子どもと家族のQOL向上を目指すことが課題である。
Bibliography:workshop7-3
ISSN:1880-1749
1880-1730
DOI:10.14879/nnigss.57.0.46.0