「特集1.甲状腺癌に対する分子標的薬治療の最前線」によせて
“甲状腺癌に対する分子標的薬治療の最前線”という特集を組ませていただいたが,まずはこれに関する貴重な症例を簡単に報告する。患者は60代の男性で,他院で甲状腺乳頭癌の手術を受け再発を繰り返していた。来院時(2006年),頸部にリンパ節再発を認めた。放射性ヨウ素治療の準備中に急速に再発リンパ節が増大したために,両側頸部リンパ節転移の切除を行った。術前の検査で頸椎転移も指摘されたので,その病変にはノバリス照射を行った。その後,患者の強い希望があり,タイロゲン注射を用いた放射性ヨウ素治療も行った(当時日本では保険収載されておらず,韓国の医療機関に依頼)。TSH抑制だけでは腫瘍のコントロールができず,ノ...
Saved in:
Published in | 日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 Vol. 32; no. 1; p. 1 |
---|---|
Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
2014
Japan Association of Endocrine Surgeons・Japanese Society of Thyroid Surgery |
Online Access | Get full text |
ISSN | 2186-9545 |
DOI | 10.11226/jaesjsts.32.1_1 |
Cover
Summary: | “甲状腺癌に対する分子標的薬治療の最前線”という特集を組ませていただいたが,まずはこれに関する貴重な症例を簡単に報告する。患者は60代の男性で,他院で甲状腺乳頭癌の手術を受け再発を繰り返していた。来院時(2006年),頸部にリンパ節再発を認めた。放射性ヨウ素治療の準備中に急速に再発リンパ節が増大したために,両側頸部リンパ節転移の切除を行った。術前の検査で頸椎転移も指摘されたので,その病変にはノバリス照射を行った。その後,患者の強い希望があり,タイロゲン注射を用いた放射性ヨウ素治療も行った(当時日本では保険収載されておらず,韓国の医療機関に依頼)。TSH抑制だけでは腫瘍のコントロールができず,ノバリス照射にソラフェニブ(自費診療クリニックで輸入薬を処方)を併用した集約的治療を行ったが,最終的には多発脳転移などをきたして原病死した(2008年)。上記の治療は経済的な余裕がなければできなかったが,現在は保険診療が可能となり患者および医療者にとって福音である。甲状腺分化癌は一般的には予後良好であるが,上記の症例のように再発を繰り返す症例も存在する。外科切除不能で放射性ヨウ素治療の効果が期待できない症例では,TSH抑制下に経過観察するしか手段はなかったが,2014年7月より放射性ヨウ素抵抗性分化癌に有効な分子標的薬であるソラフェニブが保険収載され,治療の選択肢が増えた。当クリニックでは数名の患者にソラフェニブやバンデタニブ(現在も保険未収載)を自費診療クリニックに依頼して処方してもらっていたが,すべての患者で腫瘍縮小効果を認めている。しかし,分子標的薬は一般的に有害事象がよく出現するため,症例の選択と副作用の管理が非常に重要である。本特集では,進行再発甲状腺癌の治療―分子標的薬剤をどう使うか(伊藤康弘先生),甲状腺外科専門医の観点から考える甲状腺癌薬物療法(伊藤研一先生),そして甲状腺癌に対する分子標的薬の適正使用と副作用管理を抗がん剤治療に精通されている腫瘍血液内科の清田尚臣先生に,臨床に役立つ最新の情報を解説していただいた。有害事象の発生頻度の高い抗がん剤ではあるが,厳格な適応のもとにチーム医療として副作用の管理を行うことにより,根治切除不能の分化型甲状腺癌の予後の改善が期待できると総括したい。 |
---|---|
ISSN: | 2186-9545 |
DOI: | 10.11226/jaesjsts.32.1_1 |