口唇腫瘤を伴った高齢者の異時性3重癌の1例

今回, われわれは, 本邦においては比較的まれな高齢者の口唇癌患者で, 種々な検索の結果, 3重癌であった1症例を経験したのでその概要を報告する。症例は, 84歳男性で, 初診より約5年前, 胃癌手術を受けた (Borrmann I型の早期癌で, 乳頭腺癌-髄様型β) 。その後, 抗癌剤 (5-FU) および免疫賦活剤 (PSK) の投与を受けていた。4年前残胃全摘, 同時に脾臓摘出。退院後からTegafur・PSKの投与を受けていた。約1年前, 超音波エコーにて右腎に腫瘍像が発見され腎摘出術を受けた (明細胞型のGrawitz腫) 。1か月前, 右口角部に腫瘤を認め, 増大傾向があるため昭和...

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Published in老年歯科医学 Vol. 4; no. 1; pp. 58 - 66
Main Authors 山崎, 博嗣, 道脇, 健一, 川島, 康, 青柳, 裕, 下野, 正基, 長谷川, 重夫, 北村, 温
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年歯科医学会 1990
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Summary:今回, われわれは, 本邦においては比較的まれな高齢者の口唇癌患者で, 種々な検索の結果, 3重癌であった1症例を経験したのでその概要を報告する。症例は, 84歳男性で, 初診より約5年前, 胃癌手術を受けた (Borrmann I型の早期癌で, 乳頭腺癌-髄様型β) 。その後, 抗癌剤 (5-FU) および免疫賦活剤 (PSK) の投与を受けていた。4年前残胃全摘, 同時に脾臓摘出。退院後からTegafur・PSKの投与を受けていた。約1年前, 超音波エコーにて右腎に腫瘍像が発見され腎摘出術を受けた (明細胞型のGrawitz腫) 。1か月前, 右口角部に腫瘤を認め, 増大傾向があるため昭和62年5月14日当科に紹介来院した。扁平上皮癌の診断下に入院のうえ, 60Co外部照射を右1門で開始した。30Gyで外部照射を終了し, その後, 137Cs針で組織内照射を行った (合計80Gy) 。放射線治療に対する局所反応は良好であったが, 約2週間後, 突然食欲不振に陥り, 憔悴した状態になったため, 第1, 第2癌の再発も考慮し腹部エコーにて精査したところ, 再発でないことが判明し, IVHにより栄養状態の改善をはかり軽快した。その後の経過中, 昭和63年11月口角部に浅い潰瘍が出現したが, 消炎療法にて改善し, 初診より2年余を経過した現在, 他の癌とともに良好にコントロールされ健在である。以上のことから本例は, 異時性の3重癌と考えられた。最近10年間の日本病理剖検輯報によると, 3重癌の報告は増加しており, また環境因子, 宿主因子あるいは医療原性因子など, 重複癌の発症因子を考慮すると, 人口の高齢化とともに増加することが十分考えられる。したがって, 歯科に来院した高齢者で, 癌の既往歴を有する患者に対して口腔内を精査することは, 口腔診断学上重要と考えられた。また, 高齢者の患者管理にあたつては関係各科の協力が必要と考えられた。
ISSN:0914-3866
1884-7323
DOI:10.11259/jsg1987.4.58