小脳変性症の神経病理学的研究-Holmes型およびMenzel型の各1例と文献的考察

小脳失調症の2剖検例が述べられた. これらの2症例の臨床病理学的所見が今迄報告された症例と比較検討された. 症例1は遺伝歴を有しない35歳男性. 33歳時に歩行障害と軽度の嚥下障害に気づいた. これらの症状は最初の10ヵ月間亜急性に悪化し, 視力障害も出現してきた. 約1年6ヵ月の経過で, 肺炎で死亡した. 病理学的には小脳, 特に虫部上面に著明なPurkinje細胞の脱落とBergmann gliaの増殖がみられた. 小脳の白質では変性とgliosisが著明であった. 下オリーブ核では神経細胞の脱落とgliaの増殖がみられた. 視床下核の神経細胞は萎縮し, 一部脱落していた. 視神経には軽度...

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Published in川崎医学会誌 Vol. 1; no. 1; pp. 23 - 37
Main Authors 岡本定昭, 吉村正博, 調 輝男, 野村信丞, 荒木淑郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 川崎医学会 1975
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ISSN0386-5924
DOI10.11482/kmj-j1(1)23

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Summary:小脳失調症の2剖検例が述べられた. これらの2症例の臨床病理学的所見が今迄報告された症例と比較検討された. 症例1は遺伝歴を有しない35歳男性. 33歳時に歩行障害と軽度の嚥下障害に気づいた. これらの症状は最初の10ヵ月間亜急性に悪化し, 視力障害も出現してきた. 約1年6ヵ月の経過で, 肺炎で死亡した. 病理学的には小脳, 特に虫部上面に著明なPurkinje細胞の脱落とBergmann gliaの増殖がみられた. 小脳の白質では変性とgliosisが著明であった. 下オリーブ核では神経細胞の脱落とgliaの増殖がみられた. 視床下核の神経細胞は萎縮し, 一部脱落していた. 視神経には軽度の変性がみられた. 黒質と橋には変化は認めなかった. 症例2は46歳男性. 歩行障害, 嚥下困難, 言語障害で発症. 症状は次第に増悪し, 約16年の経過で死亡. 家族歴では母親が小脳失調症であった. 病理学的には小脳, 橋, 下オリーブ核, 脊髄に著明な変性がみられた. 小脳では両半球にPurkinje細胞の脱落とBergmann gliaの増殖がみられた. 白質では著明な脱髄がみられ, 同部にはgliaの増殖がみられた. 橋核と下オリーブ核の神経細胞は著明に萎縮脱落していた. 黒質の神経細胞の脱落も著明であった. 脊髄では後索の変性とgliaの増殖, Clarke柱細胞の萎縮脱落もみられた. 症例1はHolmes型, 症例2はMenzel型に属すると思われるが, いくつかの典型例と異なる点が指摘された. 症例1では発症が亜急性で最初の10ヵ月間進行が急速であった点, 下オリーブ核の変性がびまん性で小脳よりやや強かった点, さらに視床下核, 視神経の変化がみられた点, 症例2では黒質の変化がみられた点であった. 次にMenzel型およびOPCAの剖検例53例につき検討した. Menzel型ではOPCAに比して経過年数が長く, 知能障害や精神障害を高頻度に伴う傾向にあった. 病理学的には脊髄がOPCAよりMenzel型で多く侵された. 最後にHolmes型およびOPCAとMenzel型とで病理学的比較がなされ, 後者では橋および黒質の変性がみられたが, 前者ではなかった.
ISSN:0386-5924
DOI:10.11482/kmj-j1(1)23