阿武隈山地東縁を探る:南部北上帯の高圧型片岩類と横ずれ剪断帯のフィールドガイド

東北日本の地体構造単元には,「南部北上帯」のような西南日本には存在しない広大な複合地質帯が含まれている.この南部北上帯はマイクロプレートの性格を持ち,古生代前期の海洋性島弧–縁海の断片(オフィオライト)や島弧花崗岩類に加えて,古生代後期の高圧型変成岩類などを基盤とし,断続的に保たれたシルル紀から白亜紀までの陸棚堆積岩層が存在する.そして,これらの岩石には白亜紀の花崗岩類のプルトンが貫入し,古日本弧構成岩類の改変過程が保持されている.近年,南部北上帯の構成岩類は,日本海拡大以前のアジア大陸縁火山弧の地殻進化とテクトニクスを理解するための重要な研究対象として再評価され,例えば砕屑性ジルコンをもちい...

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Published in地質学雑誌 Vol. 130; no. 1; pp. 351 - 367
Main Authors 横山, 裕晃, 志関, 弘平, 辻森, 樹, 武藤, 潤
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本地質学会 30.08.2024
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ISSN0016-7630
1349-9963
DOI10.5575/geosoc.2024.0022

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Summary:東北日本の地体構造単元には,「南部北上帯」のような西南日本には存在しない広大な複合地質帯が含まれている.この南部北上帯はマイクロプレートの性格を持ち,古生代前期の海洋性島弧–縁海の断片(オフィオライト)や島弧花崗岩類に加えて,古生代後期の高圧型変成岩類などを基盤とし,断続的に保たれたシルル紀から白亜紀までの陸棚堆積岩層が存在する.そして,これらの岩石には白亜紀の花崗岩類のプルトンが貫入し,古日本弧構成岩類の改変過程が保持されている.近年,南部北上帯の構成岩類は,日本海拡大以前のアジア大陸縁火山弧の地殻進化とテクトニクスを理解するための重要な研究対象として再評価され,例えば砕屑性ジルコンをもちいた地殻進化に関する研究に関しては,南部北上帯に固有の陸棚堆積岩層に着目することで西南日本よりも高解像度の連続的な情報が得られている.また,アジア大陸東縁の一部から現在の日本列島の形成に至る古地理を復元する研究において,南部北上帯の西端を定義する畑川断層およびそれに並行する双葉断層に沿った前期白亜紀の花崗岩を起源とする破砕帯は重要な地質研究素材である.この破砕帯は,白亜紀のアジア大陸東縁における大規模な横ずれ断層運動や,その後の背弧拡大に伴う大陸地殻の裂開やマイクロプレートの形成など,日本列島周辺域に固有の地質学的問題を解明する上で長年にわたって重要視されてきた.さらに,この破砕帯は,過去の内陸地震の地震発生域での物理化学過程を地表で直接観察できる化石断層として,非常に高い価値を持っている.本巡検コースでは,阿武隈山地の東縁で見られる古生代の高圧型変成岩や石灰岩など,南部北上帯を構成する岩石と,白亜紀以降の横ずれ断層によって生じたさまざまな変形岩を紹介し,それらについて現地での討論を目的とする.
ISSN:0016-7630
1349-9963
DOI:10.5575/geosoc.2024.0022