Pusher 現象を呈した1症例の立位練習の効果 O-121 成人中枢神経
【目的】 Pusher現象への介入として歩行練習の介入効果を示した報告があるが、本現象を呈する患者の歩行練習は介助量が大きく、安全に実施することが困難なケースをしばしば経験する。 今回、姿勢鏡と壁などの垂直指標を活用した立位練習を集中的に行い、Pusher現象が消失に至った右半球損傷の症例を経験した。その治療効果と具体的な介入内容を以下に報告する。【症例紹介】 症例は、右被殻出血を発症した50歳台の男性である。保存的治療後、第28病日に当院へ転院した。意識障害はJCS:Ⅰ-3で、失語症の影響により指示理解は不良であったが、従命反応は良好であった。Fugl-Meyer Assessment(FM...
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Published in | 九州理学療法士学術大会誌 p. 121 |
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Main Authors | , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
2023
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Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 2434-3889 |
DOI | 10.32298/kyushupt.2023.0_121 |
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Summary: | 【目的】 Pusher現象への介入として歩行練習の介入効果を示した報告があるが、本現象を呈する患者の歩行練習は介助量が大きく、安全に実施することが困難なケースをしばしば経験する。 今回、姿勢鏡と壁などの垂直指標を活用した立位練習を集中的に行い、Pusher現象が消失に至った右半球損傷の症例を経験した。その治療効果と具体的な介入内容を以下に報告する。【症例紹介】 症例は、右被殻出血を発症した50歳台の男性である。保存的治療後、第28病日に当院へ転院した。意識障害はJCS:Ⅰ-3で、失語症の影響により指示理解は不良であったが、従命反応は良好であった。Fugl-Meyer Assessment(FMA)下肢運動項目は8/34点、感覚項目は6/12点であった。高次脳機能障害は、行動性無視検査(BIT)において半側空間無視(USN)を認めた。Scale for Contraversive Pushing(SCP)が2.25/6点、Burke Lateropulsion Scale(BLS)が7/17点であり、Pusher現象は陽性と判定した。歩行能力は、Functional Ambulation Categories(FAC)が0:歩行不能であった。歩行練習では、介助量が多く十分な量の歩行量を安全に実施することが困難であった。そのため、治療方針はPusher現象を軽減させること、到達目標は歩行練習が一人介助で行えることにした。【経過】 第31病日に長下肢装具を使用した歩行練習を試みたが、介助量が多く1人介助では安全な実施が困難であったため、立位練習を選択し介入を変更した。具体的な介入方法は、姿勢鏡と壁の垂直指標と長下肢装具を用いて、①自らの姿勢の乱れの確認、②能動的な非麻痺側方向への重心移動、③正中軸を超えた非麻痺側への重心移動、④非麻痺側へのリーチ練習を実施した。これらの立位練習を20分/日、週に5回の頻度で3週間実施した。 第34病日から、姿勢鏡を使用して姿勢の乱れを自覚し、療法士が誘導しながら非麻痺側への重心移動を繰り返し実施した。練習環境は、壁側を非麻痺側として寄りかかる様に設定した。第44病日には、能動的に非麻痺側への重心移動が、誘導することなく実施出来るようになったことから、輪投げを利用したリーチ練習を開始した。 第50病日の理学療法評価では、FMA下肢運動項目は16/34点、感覚項目は6/12点であった。SCPが0/6点、BLSが1/17点となり、Pusher現象は消失したと判定した。歩行能力はFACで2:介助歩行レベルとなり一人介助での歩行練習が可能となった。【考察】 Pusher現象に対する介入方法は、ロボットアシスト歩行トレーニングや視覚的フィードバックを用いた立位練習などが報告されている。今回、長下肢装具を用いた歩行トレーニングで顕著にPusher現象がみられた症例に対して、視覚的フィードバックを用いた立位練習を集中的に実施した。Pusher現象は右半球損傷例において、①運動障害、②感覚障害、③視野障害もしくはUSNのいずれも伴う場合、回復が遅延しやすいとされている。本症例は、Pusher現象が残存しやすい特徴を有していながら比較的早期にPusher現象が消失した。症例はUSNが陽性であったが、視覚的な情報を認知しやすく、姿勢鏡を使用した視覚フィードバックにより自己の姿勢の乱れを自覚し、垂直位を学習することが可能であった。正中軸を超えて非麻痺側への重心移動を繰り返し実施したことで、身体垂直の認知的な歪みが改善されたことによりPusher現象は消失したと考える。このことから、視覚的フィードバックを用いた立位練習は、Pusher現象の改善に寄与することが示唆された。【倫理的配慮】 本報告にあたり、症例の個人情報とプライバシー保護に配慮し、症例報告に対する十分な説明をし、理解を得た上で、口頭及び書面で同意を得た。 |
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ISSN: | 2434-3889 |
DOI: | 10.32298/kyushupt.2023.0_121 |