デュルケームにおける「アスピラシオン」の概念

本稿の目的は、デュルケームの著作から、これまで十分に着目されることのなかった〈アスピラシオン〉の概念を掘りおこし、そのことをとおして、デュルケーム社会理論の可能性を、新たな角度から照らし出そうとするものである。 序章ではまず、『自殺論』におけるエゴイスムとアノミーの概念を一瞥し、これらがデュルケームにとって時代の危機の集約的な表現であったことを確認する。 そのうえで第二章では、これら二つがともに欲求の理論であることを、後期へと至るデュルケームの理論的展開に即して明らかにし、エゴイスム論の延長線上にアスピラシオン論が結実してくることを示す。 続く二つの章では、アスピラシオン論が具体的な現実分析に...

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Published in社会学評論 Vol. 41; no. 4; pp. 406 - 420
Main Author 津田, 真人
Format Journal Article
LanguageEnglish
Japanese
Published 日本社会学会 31.03.1991
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ISSN0021-5414
1884-2755
DOI10.4057/jsr.41.406

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Abstract 本稿の目的は、デュルケームの著作から、これまで十分に着目されることのなかった〈アスピラシオン〉の概念を掘りおこし、そのことをとおして、デュルケーム社会理論の可能性を、新たな角度から照らし出そうとするものである。 序章ではまず、『自殺論』におけるエゴイスムとアノミーの概念を一瞥し、これらがデュルケームにとって時代の危機の集約的な表現であったことを確認する。 そのうえで第二章では、これら二つがともに欲求の理論であることを、後期へと至るデュルケームの理論的展開に即して明らかにし、エゴイスム論の延長線上にアスピラシオン論が結実してくることを示す。 続く二つの章では、アスピラシオン論が具体的な現実分析においてどう生かされているかを見る。宗教的儀礼における集合的沸騰の問題 (第三章) と変革期における価値創造の問題 (第四章) が、その二つである。この帰結として第三章では、デュルケームの宗教論が一種独特の欲求論でもあること、第四章では、デュルケームには〈集団的主意主義〉とでもいうべき社会変動論が存在していたことが明らかになるだろう。 最後にしかし、宗教論と社会変動論を統括するこうした独自の視角の負の面にも、簡単に考察を加えておきたい。
AbstractList 本稿の目的は、デュルケームの著作から、これまで十分に着目されることのなかった〈アスピラシオン〉の概念を掘りおこし、そのことをとおして、デュルケーム社会理論の可能性を、新たな角度から照らし出そうとするものである。 序章ではまず、『自殺論』におけるエゴイスムとアノミーの概念を一瞥し、これらがデュルケームにとって時代の危機の集約的な表現であったことを確認する。 そのうえで第二章では、これら二つがともに欲求の理論であることを、後期へと至るデュルケームの理論的展開に即して明らかにし、エゴイスム論の延長線上にアスピラシオン論が結実してくることを示す。 続く二つの章では、アスピラシオン論が具体的な現実分析においてどう生かされているかを見る。宗教的儀礼における集合的沸騰の問題 (第三章) と変革期における価値創造の問題 (第四章) が、その二つである。この帰結として第三章では、デュルケームの宗教論が一種独特の欲求論でもあること、第四章では、デュルケームには〈集団的主意主義〉とでもいうべき社会変動論が存在していたことが明らかになるだろう。 最後にしかし、宗教論と社会変動論を統括するこうした独自の視角の負の面にも、簡単に考察を加えておきたい。
Author 津田, 真人
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  fullname: 津田, 真人
  organization: 一橋大学大学院
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Copyright 日本社会学会
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Discipline Sociology & Social History
EISSN 1884-2755
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Issue 4
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PublicationCentury 1900
PublicationDate 1991/03/31
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PublicationDecade 1990
PublicationTitle 社会学評論
PublicationTitleAlternate 社会学評論
PublicationYear 1991
Publisher 日本社会学会
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References (1) この言葉は、同時代の世紀末的状況を代表する一種の流行語でもあった. Barrès, M. Le culte de moi, 1888-9. 伊吹武彦訳『新集世界の文学25・バレス・自我礼拝』、中央公論社、一九七〇年.
(7) そのとき社会はひとつの「社会的身体」となる. Hubert & Mauss, op. cit., p. 126.
(17) もっともだからといって、すべての祭が革命であったわけではないし、またすべての革命が祭であったわけではないことには変わりがない. この点では、モースがマチエの前掲書を書評した際、表層的で人為的な革命礼拝は本来の宗教と混同されるべきではない、と戒めていることが注目される. Mauss, M., Compte rendu de A. Mathiéz, dans L' année sociologique, tome 8, pp. 295-8.
(4) アノミーとエゴイスムを、互いに異なる二種類の欲求として捉えることは、あまりなされていない. しかし一例としては、中久郎『デュルケームの社会理論』、創文社、一九七九年、四一八頁.
(2) 宮島喬『現代フランスと社会学』、木鐸社、一九七〇年、一〇一-四頁.
(10) 「集合的沸騰の概念はフロイトの無意識ほど影響力は大きくなかったが、デュルケームにとっては非常に重要な位置を占め、彼の社会理論におけるひとつの批判的要素となっている. おそらく、それを見過ごしてきたことは誤りといえるだろう. それは無意識に類似した概念で、ほとんど社会的無意識とも呼ばれ得る. 」Bellah, R., Beyond Belief, 1970. 葛西・小林訳『宗教と社会科学のあいだ』、未来社、一九七四年、一一五-六頁. なおベラーは、『フランスにおける教育学の進展』 [EP] を、デュルケームの社会変動論として評価した最初の一人である. Durkheim and History, in American Sociological Review, 1959, vol. 24, pp. 447-63.
(12) ここでデュルケームは、マチエの革命礼拝研究を援用しているが、実はこれ自身、「集合的欲求 (besoin collectif) 」の概念をテコに、デュルケームの宗教現象論をフランス革命に応用したものである. Mathiéz, A., Les origines des cultes révolutionnaires (1789-1792). 1904, Paris : Société Nouvelle de Librairie et d'Édition.
(8) 「無意識」の概念をデュルケームは、「現代心理学」 (恐らくはリボーやジャネ) の成果に基づいて用いている. 彼によれば、人間はほとんど無限に多様な可能性に富んでいるので、現在たまたま実現している状態だけがすべてではなく、残りは無意識的な心理部分として潜在している [EP, pp. 18-9,375-9] . しかも無意識の中にこそ、人間の行為を方向づける真の力は潜んでいるのだ [ER, p. 129] . ここで彼は、無意識領域にとりわけ過去の人間をみているが、その前提からして当然、同じことが未来の人間にも異邦の人間にも言えるはずである.
(5) この方向性に先鞭をつけたのはしかし、ユベールとモースである. Hubert, H. & Mauss, M., Esquisse d'une théorie générale de la magie, 1904, dans Mauss, M., Sociologie et anthropologie. 1968, Paris : P.U.F., pp. 56-63,114-32.
(6) 「聖なる世界は俗なる世界に対して、なかんずく、エネルギー界が物質界に対立するのと同じように対立する. 一方には力があり、他方には事物がある. 」Caillois, R., L'homme et le sacré. 1950, Paris : Gallimard, p. 38.
(13) デュルケームのモンテスキュー批判. 「彼は、社会の本性が以前の形態から少しずつ引き出され、そこから生まれる未来の形態にまた少しずつ向かって行くことを理由に、それがその内部に対立しあう相反物を含むことを説明していない. 彼は、社会があいかわらずその本性に忠実なままで、たえず何か新しいものになって行くあの継続的な過程を無視している. 」 [MR, pp. 107-8]
(15) この意味でデュルケームの思想体系を、実証主義から主意主義への転趨と捉えたパーソンズの見解は、その限りでは正しい. ただしこの著作が、せっかく抽出した主意主義を社会変動論との関連で捉えきれず、例えばウェーバーのカリスマ論などと比べて、デュルケームが相対的に社会変革の問題に無関心であったかのように説いているのは首肯しがたい. Parsons, T., The Structure of Social Action, 1937, 2nd ed., New York : Free Press, 1949, pp. 396,439-40,448,467. もっともこれはひとつには、彼がこの時点で知っていた著作が限られていたことにもよるのだが.
(16) これではまるでギュルヴィッチではないか、という反論は当然ありえよう. しかし彼の「深層社会学」は、ほかならぬデュルケームからヒントを得、デュルケームをその先駆者の一人として仰いでいることだけを、ここでは指摘しておこう. Gurvitch, G., La vocation actuelle de la sociologie. 1950, Paris : P. U.F., pp. 354ff. Pour le centenaire de la naissance de Durkheim, dans Cahiers Internationaux de Sociologie, vol. 27, 1959, pp. 8-9.
(14) それは親友ジョレスの、「社会主義は論理的に完成された個人主義である」という社会主義の規定と符合する. Jaurès, J., Socialisme et libertè, in Revue de Paris, vol. 23, 1898, p. 499.
(3) この系列に言及したものとして、Neyer, J., Individualism and Socialism in Durkheim, in Wolff, K.H. (ed.), Èmile Durkheim, 1858-1917 : A Collection of Essays, with Translations and a Biography. Columbus : Ohio State U.P., pp. 65-6. Lukes, S., Èmile Durkheim. : his life and work. 1973. London : Allen Lane, p.207. 丹下隆一『意味と解説』、マルジュ社、一九八四年、二二九-三〇頁. しかしこれらはどれも、指摘している当の意味を、十分に汲みとっているとは言い難い.
(9) それは社会の夢の実現である [FE, p. 600] . 「社会はいつも、自分が見る夢という偽金で身銭を切って満足するのだ. 」Hubert & Mauss, op. cit., p. 119. これはまた、マンハイム的意味でのイデオロギーとユートピアが鎬を削りあう地平でもある. 集合的理想を現実社会が、おのれの「補足的色彩」として吸収している限り、それはイデオロギーである. 集合的理想が新たな現実社会を志向するとき、それはユートピアになる. Manheim, K., Ideologie and Utopie. 1929. 鈴木二郎訳『イデオロギーとユートピア』、未来社、一九六八年、二〇二-一一頁. イデオロギーの強靭さは、それが集合的理想へのアスピラシオンをみたし、まさにこのアスピラシオン自体を通して、人々を当該社会のうちに回収するところにある.
なおデュルケームは、上記の引用文中からも察せられるとおり、フランスにおいてよくなされる、生理的・物質的欲求=〈besoin〉と、文化的・精神的欲求=〈désir〉とい う用語上の区別はしていない. 両者は全く互換的に用いられており、それゆえここでいう「二種類の欲求」が、この区別に対応する事実はいっさいない. またそれゆえ、生理的欲求と区別されるアスピラシオンが、〈désir〉とだけ対応するという事実もない. フィルーほどの俊英な研究家にもみられる悪弊だが、こうした外在的区別をデュルケームの欲求論に適用してみたところで、少しも読みは深まらないであろう. cf. Filloux, J.C., Durkheim et le socialisme. 1977, Genève : Droz, pp. 49-55.
(11) この意味では、ラドクリフ・ブラウンを受けてレヴィ・ストロースがデュルケームの宗教論を整理した、〈愛着という個人的感情〉→〈儀礼化された集合的行動〉→〈集団を代表する事物〉という三段階図式は、論理的骨格としては正しい. Lévi-Strauss, C., Le totémisme aujourd' hui. 1962, Paris : P.U.F., p. 90. ちょうどそれは、本稿で剔出した〈aspiration〉→〈communion〉→〈symbolisme〉 という脈絡ときれいに一致する. ただしレヴィ・ストロースがこの第一項を、個人的本能的な第一原因と勝手に決めつけて批判しているのは、全く的がはずれている. Ibid., pp.106-7. なぜならすでにみたように、アスピラシオンは集合性にこそ根拠をもつものだからである.
References_xml – reference: (8) 「無意識」の概念をデュルケームは、「現代心理学」 (恐らくはリボーやジャネ) の成果に基づいて用いている. 彼によれば、人間はほとんど無限に多様な可能性に富んでいるので、現在たまたま実現している状態だけがすべてではなく、残りは無意識的な心理部分として潜在している [EP, pp. 18-9,375-9] . しかも無意識の中にこそ、人間の行為を方向づける真の力は潜んでいるのだ [ER, p. 129] . ここで彼は、無意識領域にとりわけ過去の人間をみているが、その前提からして当然、同じことが未来の人間にも異邦の人間にも言えるはずである.
– reference: (10) 「集合的沸騰の概念はフロイトの無意識ほど影響力は大きくなかったが、デュルケームにとっては非常に重要な位置を占め、彼の社会理論におけるひとつの批判的要素となっている. おそらく、それを見過ごしてきたことは誤りといえるだろう. それは無意識に類似した概念で、ほとんど社会的無意識とも呼ばれ得る. 」Bellah, R., Beyond Belief, 1970. 葛西・小林訳『宗教と社会科学のあいだ』、未来社、一九七四年、一一五-六頁. なおベラーは、『フランスにおける教育学の進展』 [EP] を、デュルケームの社会変動論として評価した最初の一人である. Durkheim and History, in American Sociological Review, 1959, vol. 24, pp. 447-63.
– reference: (9) それは社会の夢の実現である [FE, p. 600] . 「社会はいつも、自分が見る夢という偽金で身銭を切って満足するのだ. 」Hubert & Mauss, op. cit., p. 119. これはまた、マンハイム的意味でのイデオロギーとユートピアが鎬を削りあう地平でもある. 集合的理想を現実社会が、おのれの「補足的色彩」として吸収している限り、それはイデオロギーである. 集合的理想が新たな現実社会を志向するとき、それはユートピアになる. Manheim, K., Ideologie and Utopie. 1929. 鈴木二郎訳『イデオロギーとユートピア』、未来社、一九六八年、二〇二-一一頁. イデオロギーの強靭さは、それが集合的理想へのアスピラシオンをみたし、まさにこのアスピラシオン自体を通して、人々を当該社会のうちに回収するところにある.
– reference: (12) ここでデュルケームは、マチエの革命礼拝研究を援用しているが、実はこれ自身、「集合的欲求 (besoin collectif) 」の概念をテコに、デュルケームの宗教現象論をフランス革命に応用したものである. Mathiéz, A., Les origines des cultes révolutionnaires (1789-1792). 1904, Paris : Société Nouvelle de Librairie et d'Édition.
– reference: (16) これではまるでギュルヴィッチではないか、という反論は当然ありえよう. しかし彼の「深層社会学」は、ほかならぬデュルケームからヒントを得、デュルケームをその先駆者の一人として仰いでいることだけを、ここでは指摘しておこう. Gurvitch, G., La vocation actuelle de la sociologie. 1950, Paris : P. U.F., pp. 354ff. Pour le centenaire de la naissance de Durkheim, dans Cahiers Internationaux de Sociologie, vol. 27, 1959, pp. 8-9.
– reference: (13) デュルケームのモンテスキュー批判. 「彼は、社会の本性が以前の形態から少しずつ引き出され、そこから生まれる未来の形態にまた少しずつ向かって行くことを理由に、それがその内部に対立しあう相反物を含むことを説明していない. 彼は、社会があいかわらずその本性に忠実なままで、たえず何か新しいものになって行くあの継続的な過程を無視している. 」 [MR, pp. 107-8]
– reference: (15) この意味でデュルケームの思想体系を、実証主義から主意主義への転趨と捉えたパーソンズの見解は、その限りでは正しい. ただしこの著作が、せっかく抽出した主意主義を社会変動論との関連で捉えきれず、例えばウェーバーのカリスマ論などと比べて、デュルケームが相対的に社会変革の問題に無関心であったかのように説いているのは首肯しがたい. Parsons, T., The Structure of Social Action, 1937, 2nd ed., New York : Free Press, 1949, pp. 396,439-40,448,467. もっともこれはひとつには、彼がこの時点で知っていた著作が限られていたことにもよるのだが.
– reference: (14) それは親友ジョレスの、「社会主義は論理的に完成された個人主義である」という社会主義の規定と符合する. Jaurès, J., Socialisme et libertè, in Revue de Paris, vol. 23, 1898, p. 499.
– reference: (17) もっともだからといって、すべての祭が革命であったわけではないし、またすべての革命が祭であったわけではないことには変わりがない. この点では、モースがマチエの前掲書を書評した際、表層的で人為的な革命礼拝は本来の宗教と混同されるべきではない、と戒めていることが注目される. Mauss, M., Compte rendu de A. Mathiéz, dans L' année sociologique, tome 8, pp. 295-8.
– reference: なおデュルケームは、上記の引用文中からも察せられるとおり、フランスにおいてよくなされる、生理的・物質的欲求=〈besoin〉と、文化的・精神的欲求=〈désir〉とい う用語上の区別はしていない. 両者は全く互換的に用いられており、それゆえここでいう「二種類の欲求」が、この区別に対応する事実はいっさいない. またそれゆえ、生理的欲求と区別されるアスピラシオンが、〈désir〉とだけ対応するという事実もない. フィルーほどの俊英な研究家にもみられる悪弊だが、こうした外在的区別をデュルケームの欲求論に適用してみたところで、少しも読みは深まらないであろう. cf. Filloux, J.C., Durkheim et le socialisme. 1977, Genève : Droz, pp. 49-55.
– reference: (4) アノミーとエゴイスムを、互いに異なる二種類の欲求として捉えることは、あまりなされていない. しかし一例としては、中久郎『デュルケームの社会理論』、創文社、一九七九年、四一八頁.
– reference: (7) そのとき社会はひとつの「社会的身体」となる. Hubert & Mauss, op. cit., p. 126.
– reference: (11) この意味では、ラドクリフ・ブラウンを受けてレヴィ・ストロースがデュルケームの宗教論を整理した、〈愛着という個人的感情〉→〈儀礼化された集合的行動〉→〈集団を代表する事物〉という三段階図式は、論理的骨格としては正しい. Lévi-Strauss, C., Le totémisme aujourd' hui. 1962, Paris : P.U.F., p. 90. ちょうどそれは、本稿で剔出した〈aspiration〉→〈communion〉→〈symbolisme〉 という脈絡ときれいに一致する. ただしレヴィ・ストロースがこの第一項を、個人的本能的な第一原因と勝手に決めつけて批判しているのは、全く的がはずれている. Ibid., pp.106-7. なぜならすでにみたように、アスピラシオンは集合性にこそ根拠をもつものだからである.
– reference: (1) この言葉は、同時代の世紀末的状況を代表する一種の流行語でもあった. Barrès, M. Le culte de moi, 1888-9. 伊吹武彦訳『新集世界の文学25・バレス・自我礼拝』、中央公論社、一九七〇年.
– reference: (6) 「聖なる世界は俗なる世界に対して、なかんずく、エネルギー界が物質界に対立するのと同じように対立する. 一方には力があり、他方には事物がある. 」Caillois, R., L'homme et le sacré. 1950, Paris : Gallimard, p. 38.
– reference: (3) この系列に言及したものとして、Neyer, J., Individualism and Socialism in Durkheim, in Wolff, K.H. (ed.), Èmile Durkheim, 1858-1917 : A Collection of Essays, with Translations and a Biography. Columbus : Ohio State U.P., pp. 65-6. Lukes, S., Èmile Durkheim. : his life and work. 1973. London : Allen Lane, p.207. 丹下隆一『意味と解説』、マルジュ社、一九八四年、二二九-三〇頁. しかしこれらはどれも、指摘している当の意味を、十分に汲みとっているとは言い難い.
– reference: (5) この方向性に先鞭をつけたのはしかし、ユベールとモースである. Hubert, H. & Mauss, M., Esquisse d'une théorie générale de la magie, 1904, dans Mauss, M., Sociologie et anthropologie. 1968, Paris : P.U.F., pp. 56-63,114-32.
– reference: (2) 宮島喬『現代フランスと社会学』、木鐸社、一九七〇年、一〇一-四頁.
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SourceType Publisher
StartPage 406
Title デュルケームにおける「アスピラシオン」の概念
URI https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr1950/41/4/41_4_406/_article/-char/ja
Volume 41
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