SNSとパブリック・フォーラム論 パブリック・フォーラム論の機能条件

日本のインターネット利用者全体の8割以上が、知人とのコミュニケーションや情報収集という社会生活におけるきわめて重要な目的のために、SNSを利用している。そして、SNSの利用はそうした目的達成のための主たる手段である。したがって、他者のSNS利用を阻害する行為は、対象者の社会生活に対する重大な脅威たりうる。そこで、私人によるSNS利用に法的な保護を与えるための議論が各国で展開されている。なかでも有力な議論の一つが、ある私人が表現活動のために一定のフォーラム性を備えた財産を利用することを当該財産の管理者に受忍させることで、表現の自由という憲法的価値のより高次の実現を図るための議論、すなわちパブリッ...

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Published in情報通信政策研究 Vol. 7; no. 1; pp. 139 - 162
Main Author 土井, 翼
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 総務省情報通信政策研究所 21.04.2023
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ISSN2433-6254
2432-9177
DOI10.24798/jicp.7.1_139

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Summary:日本のインターネット利用者全体の8割以上が、知人とのコミュニケーションや情報収集という社会生活におけるきわめて重要な目的のために、SNSを利用している。そして、SNSの利用はそうした目的達成のための主たる手段である。したがって、他者のSNS利用を阻害する行為は、対象者の社会生活に対する重大な脅威たりうる。そこで、私人によるSNS利用に法的な保護を与えるための議論が各国で展開されている。なかでも有力な議論の一つが、ある私人が表現活動のために一定のフォーラム性を備えた財産を利用することを当該財産の管理者に受忍させることで、表現の自由という憲法的価値のより高次の実現を図るための議論、すなわちパブリック・フォーラム論(PF論)をSNSに適用するというものである。アメリカ合衆国の裁判例には実際にPF論をSNSに適用したものも存在しており、この議論の当否を検討する意義は大きい。しかるに、本稿は、かかる裁判例及び日米の一部学説の潮流にもかかわらず、以下の2つの理由から、日本においてSNSにPF論を適用すべき理由は存在しないと主張する。第1に、SNSへのアクセスを法的に保障するという目的との関係で、SNSがパブリック・フォーラムか否かという問題を立てる意味がない。第2に、こうした問題に拘泥することにより、却って適切な利益衡量が阻害されうる。換言すれば、SNSに関する法的規制につき検討するためには、表現の場としてのSNSの特性及び利害関係人の利益状況をそれ自体として直截に分析すれば必要にして十分である。この主張を論証するために、本稿は、「ある事案においてPF論が機能するとすれば、当該事案における表現の自由の反対利益は限定的であり、かつ、そうした反対利益の価値は表現の自由に比して類型的に小さい」という仮説を措定し、アメリカ連邦最高裁判例を題材としてその仮説の妥当性を示す。そして、SNSをめぐる利害状況はそうしたPF論の機能条件を充足するものではないことを論ずる。これにより、日本においてSNSにPF論を適用する理由がないことが明らかになる。
ISSN:2433-6254
2432-9177
DOI:10.24798/jicp.7.1_139