中国「和諧社会」論と少数民族 中華民族の多元性という本質主義の批判的考察
調和のとれた杜会を意味する「和諧社会」の構築は、2004年に中国共産党の正式な執政目標として定められた。本論は、中国の今日的各種矛盾と問題を解消するプロセスとして見なされる「和諧社会」構築の理論から、民族間関係の調和に関する問題を取り上げる。「和諧社会」論の思想的系譜については、中国の伝統的和諧観、協同社会の実現というマルクス主義的和諧観、「人民内部の矛盾」の解消という中国の特色ある社会主義に根ざした和諧観が主張されている。しかし、一方で政府や学術界による「和諧」の条件の規範化によって、「和諧社会」における主体はイデオロギーへの従属を求められる。民族間関係の調和においては、「和諧社会」構築にと...
Saved in:
Published in | 現代社会学理論研究 Vol. 2; pp. 128 - 140 |
---|---|
Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本社会学理論学会
2008
|
Online Access | Get full text |
ISSN | 1881-7467 2434-9097 |
DOI | 10.34327/sstj.2.0_128 |
Cover
Loading…
Summary: | 調和のとれた杜会を意味する「和諧社会」の構築は、2004年に中国共産党の正式な執政目標として定められた。本論は、中国の今日的各種矛盾と問題を解消するプロセスとして見なされる「和諧社会」構築の理論から、民族間関係の調和に関する問題を取り上げる。「和諧社会」論の思想的系譜については、中国の伝統的和諧観、協同社会の実現というマルクス主義的和諧観、「人民内部の矛盾」の解消という中国の特色ある社会主義に根ざした和諧観が主張されている。しかし、一方で政府や学術界による「和諧」の条件の規範化によって、「和諧社会」における主体はイデオロギーへの従属を求められる。民族間関係の調和においては、「和諧社会」構築にとっての歴史的起源であり現実的根拠でもある「中華民族の多元性」に基づく調和が主張されている。民族間関係調和は、多文化主義の実践形式の問題として捉えられ、一方で「民族」の「文化化」「脱政治化」、もう一方で「制度化」「政治化」が論じられている。しかし、いずれの場合にも「和諧社会」を構成する「民族」主体が本質化されるため、所与の中華民族-少数民族というヒエラルヒーが維持、強化されてしまう。本論では、このような本質主義が、「和諧」の可能性を限定的なものにしてしまうことを批判的に考察したい。 |
---|---|
ISSN: | 1881-7467 2434-9097 |
DOI: | 10.34327/sstj.2.0_128 |