神経学的音楽療法を取り入れた一症例 慢性的な左半側空間無視を呈した症例の座位姿勢の改善を目指して

【目的】  2年前の脳梗塞により左半側空間無視(以下,USN)が残存し,再発により両側片麻痺となった症例を経験した.症例は常に頭部右偏倚であり,頚部体幹の筋緊張が高く座位が不安定であったことから,USNと座位姿勢の改善を目的に神経学的音楽療法(以下,NMT)を取り入れることとした. 【対象】  80歳代,男性,右利き,元小学校教諭.診断名:脳出血.障害名:右不全片麻痺,左片麻痺,USN.画像所見:左前頭回皮質下出血,右内頚動脈閉塞に伴う広範囲の梗塞.既往歴:脳梗塞により当院に6ヶ月入院.介護度3. 【評価】  意識清明.Br-s:右V-V-V,左II-II-III.感覚(左)表在:中等度鈍麻,...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 173
Main Authors 西本, 加奈, 井上, 亮子, 辻畑, 光宏, 瀬戸, 牧子, 岩永, 勇人, 井元, 舞, 大木田, 治夫, 山田, 麻和
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2009
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2009.0.173.0

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Summary:【目的】  2年前の脳梗塞により左半側空間無視(以下,USN)が残存し,再発により両側片麻痺となった症例を経験した.症例は常に頭部右偏倚であり,頚部体幹の筋緊張が高く座位が不安定であったことから,USNと座位姿勢の改善を目的に神経学的音楽療法(以下,NMT)を取り入れることとした. 【対象】  80歳代,男性,右利き,元小学校教諭.診断名:脳出血.障害名:右不全片麻痺,左片麻痺,USN.画像所見:左前頭回皮質下出血,右内頚動脈閉塞に伴う広範囲の梗塞.既往歴:脳梗塞により当院に6ヶ月入院.介護度3. 【評価】  意識清明.Br-s:右V-V-V,左II-II-III.感覚(左)表在:中等度鈍麻,深部:重度鈍麻.ROM:頚部体幹の左回旋・伸展,左上下肢に制限あり.Ashworthスケール:左上下肢 3/4,右上下肢0/4.端座位は体幹屈曲・右側彎,骨盤後傾位,重心右優位であり右肘伸展位にて支持,保持は約1分にて左後方へ崩れる.視線は常に右下肢周辺で頭部の左への動きは見られず.車椅子10M駆動70秒.BIT行動性無視検査(以下,BIT)通常56/146点,行動11/81点.FIM運動面33/91.食事時の左側食べ残し,左側へのずれ,駆動困難さあり.MMSE26点.言語面問題. 【方法】  発症後2ヶ月目より通常の理学療法・作業療法に加え,右手で打楽器やキーボード演奏や歌唱を行うNMTを開始した.A期(NMT)1週間,B期(NMTあり)2週間としたABAB方式を用い,1回約30分,週6回を2クール,合計24回実施した.評価として,座位姿勢分析,左への臀部荷重率,10M駆動,BITを週1回,加えて毎回のNMT前後に星状末梢,二等分検査を実施した.尚,本研究は当院倫理委員会の承認後,症例に説明し同意を得た. 【結果】  ROM:頚部体幹の右回旋・伸展への可動性が拡大.Ashworthスケール:左上下肢2/4.端座位は骨盤前傾可能,頭部右偏倚はあるも正中位がとれ約30分保持可能.左への臀部荷重率は,41.7から46.0%へ改善した.車椅子10M駆動53秒.BIT通常78/146点,行動37/81点と得点改善.毎回のNMT後の星状末梢,二等分検査では,ばらつきはあるものの改善傾向を示した.FIM運動面39/91.駆動時の左方へのずれやぶつかりが減少し,左側の探索活動が高まった. 【考察】  今回,慢性的なUSNを呈した症例に対しNMTを行った.症例の左側認識は机上検査・日常生活でも改善が見られ,慢性的USNへの効果が認められた.また,NMTの中で多重感覚刺激に加え,頸部体幹といった中枢部の随意的な動きを引き出したことにより,頸部体幹・左上下肢の筋緊張が軽減し関節可動域が拡大され,座位姿勢の改善につながったと考える.さらに,発話や笑顔の増大といった変化も見られNMTの有用性を確認できた.
Bibliography:173
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2009.0.173.0