開口障害が改善した顎関節症患者の治療経験 体幹機能から考える

【はじめに】 顎関節症患者は多く経験する症例ではないものの、年間で数例は経験する。文献等では、治療に頚部筋緊張のリラクセーションを用いるという記述があるが、促通という概念はあまり見られない。今回、開口障害を呈した症例らに対し、体幹機能に着目して促通という概念を用いてアプローチした結果症状の改善が得られた。 【症例紹介と理学療法経過】 本研究の主旨に同意を得た2症例を対象とした。 症例紹介1:30代男性。H21年2月に当院受診し右顎関節症と診断され理学療法開始となる。受傷機転はあくびをした時に疼痛が起き、以来食事の時など開口時に疼痛が起きるとのことである。 症例紹介2:30代男性。以前より開口時...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 p. 36
Main Author 山田, 裕司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2011
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.30.0.36.0

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Abstract 【はじめに】 顎関節症患者は多く経験する症例ではないものの、年間で数例は経験する。文献等では、治療に頚部筋緊張のリラクセーションを用いるという記述があるが、促通という概念はあまり見られない。今回、開口障害を呈した症例らに対し、体幹機能に着目して促通という概念を用いてアプローチした結果症状の改善が得られた。 【症例紹介と理学療法経過】 本研究の主旨に同意を得た2症例を対象とした。 症例紹介1:30代男性。H21年2月に当院受診し右顎関節症と診断され理学療法開始となる。受傷機転はあくびをした時に疼痛が起き、以来食事の時など開口時に疼痛が起きるとのことである。 症例紹介2:30代男性。以前より開口時に違和感があり疼痛へと変化し来院。右顎関節症と診断され理学療法開始となる。開口時の痛みは肩甲帯の位置で痛みが変化する。罹患側肩甲帯挙上位では疼痛が低下するも、下制時では疼痛が強くなる傾向がある。 【治療内容と結果】 症例1に対しては、PNFの上部体幹パターンLiftingを数回施行した。その後開口障害が改善し疼痛の低下及び消失が認められた。症例2に対しては端座位にて右方向に重心移動を行わせ、その肢位でRhythmic Stabilazationを数回施行した。症例1,2ともその後開口障害が改善し疼痛の低下及び消失が認められた。 【考察】 症例1、2とも共通点として患側である右側の肩甲帯が後方下制位にあり胸椎の後彎が増強し下顎が前方に突出している点であった。顎関節と肩甲帯の関係の一例として、右の肩甲帯が後方下制であると、鎖骨が下制位となる。鎖骨が下制位となると胸鎖乳突筋の鎖骨部に伸張性のtentionが加わる。側頭骨・乳様突起に起始を持つ、胸鎖乳突筋が側頭骨を後方に引くことで、相対的に下顎骨が前方偏位となることが予想される。また、側頭骨が下制することでの下顎骨との位置関係に問題が生じると考える。矢状面上の特徴では頚椎の伸展位と胸椎の後彎姿勢の増大が見られた。これらの肢位では体幹が抗重力的に機能的に作用しているとは考にくい。よって体幹筋を促通する必要があると考えた。 促通の方向性として罹患側の肩甲帯が下制・後退また胸椎の後彎という特徴を改善することを目的とした。したがって、上部体幹を罹患側から非罹患側の回旋を行うこと選択し、症例1対してはLiftingを行い、また症例2に対しては端座位での重心移動を行った直後に症状の改善が見られた。よってこの2例からであるが、顎関節症のメカニカルストレスの起因に罹患側の体幹の抗重力機能に問題があると考え、そこに着手するアプローチも理学療法の一手段であると考える。
AbstractList 【はじめに】 顎関節症患者は多く経験する症例ではないものの、年間で数例は経験する。文献等では、治療に頚部筋緊張のリラクセーションを用いるという記述があるが、促通という概念はあまり見られない。今回、開口障害を呈した症例らに対し、体幹機能に着目して促通という概念を用いてアプローチした結果症状の改善が得られた。 【症例紹介と理学療法経過】 本研究の主旨に同意を得た2症例を対象とした。 症例紹介1:30代男性。H21年2月に当院受診し右顎関節症と診断され理学療法開始となる。受傷機転はあくびをした時に疼痛が起き、以来食事の時など開口時に疼痛が起きるとのことである。 症例紹介2:30代男性。以前より開口時に違和感があり疼痛へと変化し来院。右顎関節症と診断され理学療法開始となる。開口時の痛みは肩甲帯の位置で痛みが変化する。罹患側肩甲帯挙上位では疼痛が低下するも、下制時では疼痛が強くなる傾向がある。 【治療内容と結果】 症例1に対しては、PNFの上部体幹パターンLiftingを数回施行した。その後開口障害が改善し疼痛の低下及び消失が認められた。症例2に対しては端座位にて右方向に重心移動を行わせ、その肢位でRhythmic Stabilazationを数回施行した。症例1,2ともその後開口障害が改善し疼痛の低下及び消失が認められた。 【考察】 症例1、2とも共通点として患側である右側の肩甲帯が後方下制位にあり胸椎の後彎が増強し下顎が前方に突出している点であった。顎関節と肩甲帯の関係の一例として、右の肩甲帯が後方下制であると、鎖骨が下制位となる。鎖骨が下制位となると胸鎖乳突筋の鎖骨部に伸張性のtentionが加わる。側頭骨・乳様突起に起始を持つ、胸鎖乳突筋が側頭骨を後方に引くことで、相対的に下顎骨が前方偏位となることが予想される。また、側頭骨が下制することでの下顎骨との位置関係に問題が生じると考える。矢状面上の特徴では頚椎の伸展位と胸椎の後彎姿勢の増大が見られた。これらの肢位では体幹が抗重力的に機能的に作用しているとは考にくい。よって体幹筋を促通する必要があると考えた。 促通の方向性として罹患側の肩甲帯が下制・後退また胸椎の後彎という特徴を改善することを目的とした。したがって、上部体幹を罹患側から非罹患側の回旋を行うこと選択し、症例1対してはLiftingを行い、また症例2に対しては端座位での重心移動を行った直後に症状の改善が見られた。よってこの2例からであるが、顎関節症のメカニカルストレスの起因に罹患側の体幹の抗重力機能に問題があると考え、そこに着手するアプローチも理学療法の一手段であると考える。
Author 山田, 裕司
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SubjectTerms Proprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)
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