左半側空間無視とワーキングメモリーの関連性 重度高次脳機能障害を呈した一症例の治療を通して

〈緒言〉左半側空間無視(以下:USN)は臨床上、頻繁に認める高次脳機能障害の1つであり、その病態は様々である。また、病態の解釈も様々な報告があり、最近ではUSN患者のワーキングメモリー障害を問題視する報告がある。今回、重度高次脳機能障害を呈した1症例の治療介入を通して、USNとワーキングメモリー(以下:WM)との関連性について考察したので以下に報告する。 〈症例〉脳出血による右頭頂葉皮質下病変を呈した78歳女性。リハビリテーション開始時(発症後1ヶ月)左側上下肢に軽度不全麻痺を認め、感覚機能は重度鈍麻を呈していた。高次脳機能障害はUSN症状を主症状とし、身体失認、相貌失認、構成障害、失行、前頭...

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Published in日本農村医学会学術総会抄録集 p. 288
Main Authors 河村, 章史, 森井, 幸一, 吉井, 俊英
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本農村医学会 2007
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ISSN1880-1749
1880-1730
DOI10.14879/nnigss.56.0.288.0

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Abstract 〈緒言〉左半側空間無視(以下:USN)は臨床上、頻繁に認める高次脳機能障害の1つであり、その病態は様々である。また、病態の解釈も様々な報告があり、最近ではUSN患者のワーキングメモリー障害を問題視する報告がある。今回、重度高次脳機能障害を呈した1症例の治療介入を通して、USNとワーキングメモリー(以下:WM)との関連性について考察したので以下に報告する。 〈症例〉脳出血による右頭頂葉皮質下病変を呈した78歳女性。リハビリテーション開始時(発症後1ヶ月)左側上下肢に軽度不全麻痺を認め、感覚機能は重度鈍麻を呈していた。高次脳機能障害はUSN症状を主症状とし、身体失認、相貌失認、構成障害、失行、前頭葉症状等、複数の障害を認めた。症例は日常生活活動(以下:ADL)上、要介助状態であり、高次脳機能障害がADLの阻害因子となっていることは明らかであった。尚、本症例は2年前より認知症の診断を受けていたが、受傷前はADL自立レベルであった。 〈経過〉治療開始時より左側認識向上を目的とし、体性感覚-視覚を介した治療介入を実施した。それにより、BIT上の検査成績向上を認めたが、ADL上において自立度の向上は認められない状態であった。その後の評価により前頭葉障害が行動制限因子として考えられたため、前頭葉課題を追加して訓練を実施した。しかし、紙面上検査での得点向上は認められたものの、ADL上で介助者の目の離せない状態に変わりはなかった。症例は、自己身体を視覚、体性感覚的に認識が困難であり、さらに意思決定による適切な行動をするという点で大きな問題を抱えている様子であった。 〈考察〉本症例においてADLの阻害因子が高次脳機能障害であることは前述の通りである。評価より特に、選択的に注意を向け、視覚認知をし、行為をするという行動の一連の流れの破綻をきたしていると思われた。Awh&Jonides(1998)によると視空間的WMのうち空間的WMは頭頂-前頭前野間に顕著なネットワーク結合があり、選択的注意により維持されるという神経解剖学的証拠があると報告されている。また、現在では前頭前野はWMのセンターであることは明らかにされているが、主に背外側部(46野、9野)は視覚情報処理過程における背側経路からの投射を受け、空間性情報に関与しているとされている。そして、背外側部は今行っている課題や計画遂行のため、WMとして保持している情報をモニターしたり操作したりする過程に関与している。ゆえに本症例の行動を考えみるに、背側経路の障害が示唆され、空間認知のみならず、意思決定に重要とされるWMの破綻が示唆される。本症例の治療経験を通し、今後の臨床展開においてUSNとWMの関連を視野に取り入れた治療の必要性が考えられた。
AbstractList 〈緒言〉左半側空間無視(以下:USN)は臨床上、頻繁に認める高次脳機能障害の1つであり、その病態は様々である。また、病態の解釈も様々な報告があり、最近ではUSN患者のワーキングメモリー障害を問題視する報告がある。今回、重度高次脳機能障害を呈した1症例の治療介入を通して、USNとワーキングメモリー(以下:WM)との関連性について考察したので以下に報告する。 〈症例〉脳出血による右頭頂葉皮質下病変を呈した78歳女性。リハビリテーション開始時(発症後1ヶ月)左側上下肢に軽度不全麻痺を認め、感覚機能は重度鈍麻を呈していた。高次脳機能障害はUSN症状を主症状とし、身体失認、相貌失認、構成障害、失行、前頭葉症状等、複数の障害を認めた。症例は日常生活活動(以下:ADL)上、要介助状態であり、高次脳機能障害がADLの阻害因子となっていることは明らかであった。尚、本症例は2年前より認知症の診断を受けていたが、受傷前はADL自立レベルであった。 〈経過〉治療開始時より左側認識向上を目的とし、体性感覚-視覚を介した治療介入を実施した。それにより、BIT上の検査成績向上を認めたが、ADL上において自立度の向上は認められない状態であった。その後の評価により前頭葉障害が行動制限因子として考えられたため、前頭葉課題を追加して訓練を実施した。しかし、紙面上検査での得点向上は認められたものの、ADL上で介助者の目の離せない状態に変わりはなかった。症例は、自己身体を視覚、体性感覚的に認識が困難であり、さらに意思決定による適切な行動をするという点で大きな問題を抱えている様子であった。 〈考察〉本症例においてADLの阻害因子が高次脳機能障害であることは前述の通りである。評価より特に、選択的に注意を向け、視覚認知をし、行為をするという行動の一連の流れの破綻をきたしていると思われた。Awh&Jonides(1998)によると視空間的WMのうち空間的WMは頭頂-前頭前野間に顕著なネットワーク結合があり、選択的注意により維持されるという神経解剖学的証拠があると報告されている。また、現在では前頭前野はWMのセンターであることは明らかにされているが、主に背外側部(46野、9野)は視覚情報処理過程における背側経路からの投射を受け、空間性情報に関与しているとされている。そして、背外側部は今行っている課題や計画遂行のため、WMとして保持している情報をモニターしたり操作したりする過程に関与している。ゆえに本症例の行動を考えみるに、背側経路の障害が示唆され、空間認知のみならず、意思決定に重要とされるWMの破綻が示唆される。本症例の治療経験を通し、今後の臨床展開においてUSNとWMの関連を視野に取り入れた治療の必要性が考えられた。
Author 河村, 章史
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