罪悪感情に着目した反抗挑発症男児例に対する治療の工夫

齊藤は注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactive Disorder: ADHD)の一部が反抗挑発症(Oppositional Defiant Disorder: ODD)を経て社会的に予後不良となる経過をDBD(破壊的行動障害)マーチと概念化し, ODD段階での治療の重要性を主張している. しかし本邦において, ADHDに合併したODDに対する精神療法の報告は少ない. 我々はADHDと自閉スペクトラム症にODDを合併した8歳の男児例を提示し報告する. 精神療法では, 罪悪感と良心の発生過程について注目し, 精神分析家の古澤が述べた「許され罪悪感」と, 哲学者のス...

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Published in児童青年精神医学とその近接領域 Vol. 63; no. 1; pp. 43 - 55
Main Authors 渡邉恵里, 川谷大治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本児童青年精神医学会 01.02.2022
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ISSN0289-0968

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Summary:齊藤は注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactive Disorder: ADHD)の一部が反抗挑発症(Oppositional Defiant Disorder: ODD)を経て社会的に予後不良となる経過をDBD(破壊的行動障害)マーチと概念化し, ODD段階での治療の重要性を主張している. しかし本邦において, ADHDに合併したODDに対する精神療法の報告は少ない. 我々はADHDと自閉スペクトラム症にODDを合併した8歳の男児例を提示し報告する. 精神療法では, 罪悪感と良心の発生過程について注目し, 精神分析家の古澤が述べた「許され罪悪感」と, 哲学者のスピノザが述べた良心論および受動性と能動性にヒントを得た. 薬物療法により衝動抑制ができたことで内省を促しやすくなり, 精神療法を介して罪悪感を感じられるようになった. 治療は母子同席で行い, 母が語る問題行動の背後にある不安を取り上げ, 原因に思いを寄せる面接を心がけた. その結果, 問題行動に対し悪いことをしてしまったと嘆く児を母が受け入れる場面につながり, 児が問題行動について振り返り, 罪悪感を行動に移すことなく悪い自己を統合していく過程を歩み始めることができた. さらに, 自分の行動の善悪を判断する理性の力を育てることでスピノザのいう良心が育ち, 自ら衝動を抑制できるようになり, 社会適応が改善した.
ISSN:0289-0968