「他領域からのトピックス」iPS細胞を用いた網膜の再生医療

ヒトにおいて, 中枢神経に属する網膜は再生しないと長年にわたって考えられてきた. しかし, 近年の幹細胞研究の進歩により, 幹細胞を用いた網膜の再生医療が実現しようとしている. 特に, 最近に発明された人工多能性幹(iPS)細胞を用いると, 幹細胞を用いた再生医療で懸念されていた倫理性や拒絶の問題が解決可能で, 臨床応用への期待が高まっている. われわれは, iPS細胞を用いた再生医療の嚆矢として, 加齢黄斑変性(AMD)に対する患者iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)移植の臨床研究を開始した. AMDは先進国における主要な失明原因であり, 本邦での有病率も増加している. 滲出型AMDに対する...

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Published in日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol. 118; no. 10; pp. 1197 - 1203
Main Author 栗本康夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本耳鼻咽喉科学会 20.10.2015
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ISSN0030-6622

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Summary:ヒトにおいて, 中枢神経に属する網膜は再生しないと長年にわたって考えられてきた. しかし, 近年の幹細胞研究の進歩により, 幹細胞を用いた網膜の再生医療が実現しようとしている. 特に, 最近に発明された人工多能性幹(iPS)細胞を用いると, 幹細胞を用いた再生医療で懸念されていた倫理性や拒絶の問題が解決可能で, 臨床応用への期待が高まっている. われわれは, iPS細胞を用いた再生医療の嚆矢として, 加齢黄斑変性(AMD)に対する患者iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)移植の臨床研究を開始した. AMDは先進国における主要な失明原因であり, 本邦での有病率も増加している. 滲出型AMDに対する現行治療は主に新生血管の抑制にあるが, これは対症療法の域を出ない. 一方, 本疾患発症の背景にあるRPEの劣化を治療することができれば根治的治療になる可能性がある. しかし, RPE移植治療は自家移植を行うには手術侵襲が大きく, ほかにドナーを求める場合には倫理的あるいは免疫学的問題が伴うため, いまだ一般的治療とはなり得ていない. われわれは, 自家iPS細胞より作製したRPE細胞シートの滲出型AMD患者網膜下移植に成功し, 現在, 術後経過観察中である. iPS細胞治療としては世界初となる本臨床研究では, 安全性の確認が主要評価項目となるが, 術後半年を経過した現時点で, 特記すべき有害事象は発生していない. RPE移植治療の安全性と有効性が確認されれば, 次は網膜のより内層に位置する視細胞が再生医療のターゲットとなる. 現在, 動物実験においてiPS細胞より誘導した視細胞のシート移植に成功しており, 臨床応用に向けて準備中である.
ISSN:0030-6622